最後に勝敗を分けたのは、勝利への執着心……言いかえるなら、モチベーションの差だったろうか。
「ATPツアーファイナルズに出場することを考えると、物凄く大切な大会だった。モチベーションが高かったし、特に最後のタイブレークでは、全てのポイントで非常に集中できていた」
現地10月30日に行われたスイス・インドアの決勝戦。錦織を6‐1、7‐6で退け頂点に立ったマリン・チリッチは、この一戦にいかに懸けていたか、勝利を欲していたかを素直に認めている。シーズン上位8選手のみが出場できるツアーファイナルズへの“当確レース”において、チリッチの位置は現在9位。同7位のラファエル・ナダルがすでに欠場を表明しているため、この大会での好成績は、出場権獲得へと大きく前進することを意味していた。試合を通じファーストサーブで81%、セカンドサーブでも65%を記録したサーブでの高いポイント獲得率が、権利獲得に燃えるチリッチの執念と集中力を物語る。また、多くの選手が「ボールが重く、高く弾む」と声を揃えるこのインドアコート特有のコンディションが、長身でパワーに勝るチリッチに有利に働いた側面もあったろう。
「ボールが短くなりがちだった」
そう振り返る錦織のストロークを、チリッチは前に踏みこみ、腰よりも高い打点で次々に叩き込んだ。そのチリッチの猛攻の前に第1セットを失った錦織は、それでも第2セットでは自ら広角にボールを打ち分ける攻撃的な姿勢で、3本のセットポイントを握るまでに持ち込む。しかし、ここまでわずか1本だったダブルフォルトをマッチポイントという場面で犯してしまい、勝負あり。今季2度目の優勝には手が届かなかった。
無類の負けず嫌いである錦織にとって、決勝戦でライバルに敗れたスイス・インドアは多大な悔しさを伴う大会だっただろうが、それでも幾つものポジティブな要素を持ち帰ることができたのも、また確かだ。何より大きいのは、3週間前の楽天ジャパンオープン2回戦の試合中に突如錦織を襲い、無念の途中棄権に追いやった臀部の負傷の回復だ。