今年の夏に例年以上に多くの激闘を重ねた錦織は、9月の全米オープン後は疲労とケガもあり、デビスカップのダブルスとジャパンオープンのシングルス1回戦しか、最後まで戦い切った試合が無かった。錦織は以前、「どんなに長くテニスをやってきても、1カ月ほどゲームから離れていると試合勘は失われてしまう」と話していたことがある。その意味でも、試合ごとに異なるテーマと意義を内包していた今大会の勝ち上がりの足跡は、試合勘と自信を取り戻す絶好のプロセスでもあっただろう。
久々の実戦と慣れないサーフェスに戸惑いながらも勝利した初戦、安定のプレーとスーパーショットも飛び出した2回戦、苦手とした強敵からプランを遂行し完勝した3回戦、そしてサウスポーでトリッキーなプレーヤーに剣が峰まで追い詰められながらも、逆転勝利をつかみとった準決勝――スイスで重ねたこれら濃密なる試合の経験は、現時点での最大の目標である「ツアーファイナルズで良い結果を残すこと」に向け、確固たる布石として連なってゆくはずだ。(文・内田暁)