シーズンも終盤の終盤に差し掛かったこの時期、ケガやコンディション調整に苦しむのは、トップ選手たちこそが抱える共通の悩みである。この大会でも第7シードのリシャール・ガスケが初戦でケガのために棄権し、第2シードのミロシュ・ラオニッチは初戦で敗退した。
同じ週にウィーンで開催された大会に目を向けても、第2シードのトマーシュ・ベルディヒや第3シードのドミニク・ティームらが3回戦以前で敗退。第4シードのダビド・フェレールをはじめ3人の選手が、試合途中もしくは試合前に故障を理由に棄権している。
そのような過酷な戦場に3週間ぶりに戻ってきた錦織は、「しっかり休んだあとにリハビリとトレーニングをやってきた」「1週間は完全にオフをとり、非常に早く良くなった」と順調な回復を強調。実際にコート上では、快足を飛ばして相手のドロップショットや強打を拾いまくり、“エアK”でウィナーを奪うなど、ケガの影響を感じさせない好プレーを連発していた。特に2回戦の対パオロ・ロレンチ戦で、頭上を越されたロブを“股抜きショット”で返球し、次の瞬間にはネット際へと猛然と走り込んで相手のドロップボレーをボールとコートの数センチの隙間にラケットを差し込み返球したシーンは、今大会のハイライトに数えられたスーパープレーであった。
ひとたびコートに立ちポイントを奪うことに没頭すれば、ケガへの不安などは、頭から消え去ってしまうものだろう。その中でタフな5試合を無事戦い抜けたことは、「ケガをぶり返さないよう注意したい」と言っていた彼にとっては、まずは大きな収穫だ。
さらには今大会では、3回戦で過去4戦全敗していたフアン マルティン・デル ポトロに勝ち、準決勝のジル・ミュラー戦では2本のマッチポイントを凌ぎ逆転するなど、勝負強さを示せたことも大きな意味を持ったはずだ。