かつて、売店が所属する組合組織は二つあった。法人格を持って店舗を構える売店は東京都中央卸売市場たばこ小売組合に、机ひとつで営む個人の売店は東京都中央卸売市場売店組合に加入。引き売りスタイルでの営業は、戦争で夫を亡くした戦争未亡人たちの働き口として一代限りと決められていたため、おのおのの店主の死亡により、順次閉店。東京都中央卸売市場売店組合は2013(平成25)年3月末に解散され、店舗を構えるスタイルの売店のみが残った。
山崎さんにはなにを尋ねても、すぐ答えが返ってくる。
築地の仲卸について聞いた時、山崎さんが「616ある仲卸は……」と話し始めた。これまでの取材で、築地場内の人から仲卸の数を正確に聞いたことはなかった。誰も把握していないのかと思っていた仲卸の数を、山崎さんがどうやって把握したのか聞いてみると「あたし、自分で数えましたから」と、さらり。豊洲移転後の場内配置図を見ながら、ひとつひとつ数えたのだと言う。「なんでもちゃんと把握できてないと嫌なタイプなんです」とも。だからなのか、山崎さんが語る話はいつも、正確な数字と正確な状況把握を伴っている。
そんな山崎さんだからこそ、聞いてみたいことがたくさんあった。まず、なぜ発泡に飲料を入れて販売しているのだろうか。
「ああ、どぶ漬けのことですね。なんで冷蔵庫とか使わないんだろうって思うでしょ。築地の売店はどこも、20アンペアしかないんですよ。これだと、動力(業務用機器で使われる3相200ボルトの電圧を伴った電気のこと)の冷蔵庫を動かすには足りないんです。40アンペアにするには、何十万円も費用がかかるみたいで。だからこうやってるんです」
売れ筋はなにか。
「多品種少量ですから、絶えず新しい商品を入れるよう工夫はしています。種類で言うと、とにかく飲み物とパンが出ますね。夏はポカリとコーラ。冬は温かいお茶。それから、夏にはスナック菓子が、冬はチョコレートが売れます」