「誤解されやすいのですが、食料品や衣料品といった日用品の購入など身の回りの世話は後見人の仕事ではありません。治療、手術、延命措置などの医療同意も後見人の職務ではありません」(表さん)
成年後見制度は大きく分けると「法定後見制度」と「任意後見制度」の二つがある。法定後見は、認知症などで判断能力が低下してから家庭裁判所に申し立て、裁判所に認められると裁判所が選んだ後見人がすぐに後見を開始する。申し立てができるのは、本人のほか、配偶者、4親等内の親族、弁護士・司法書士などの法律専門職、社会福祉士などだ。身寄りがない人は市区町村長が申し立て、法律専門職、社会福祉士や市民後見人が後見人に選ばれる。法廷後見は本人の判断能力の程度によって、さらに「補助」「保佐」「後見」に分けられ、支援内容が異なる。
一方、任意後見は本人の判断能力があるうちに、将来認知症などで判断能力がなくなったときに備えて後見人を選んでおく制度だ。後見人に特別な資格はなく、子どもや配偶者などの家族、知人を後見人にすることもできる。これまで後見人になるのは家族が多かったが、近年は一人暮らし世帯の増加などにより、専門職が後見になる場合が多くなっている。
任意後見制度を利用するにはまず、必要書類を用意して本人と後見人になる人が一緒に公証役場に行き、任意後見契約を結ぶ。いざ本人が認知症になったら主に後見人が家庭裁判所に申し立てをし、裁判所に「任意後見監督人」を選んでもらう。任意後見監督人とは、後見人が不正をしていないかどうかを監督する立場の人のことで弁護士などが選任される。
14年の統計では、成年後見制度の利用者は18万4670人、任意後見制度の利用者はわずか2119人。認知症が800万人に増えるといわれるなか、利用者は少ない。表さんはこう話す。
「たとえば財産が少ない場合はトラブルに巻き込まれる可能性は低く、必ずしも後見人をつけなくてもいいかもしれません。また、財産があっても相続人が1人で、かつ同居している場合も後見人の必要性は低いといえるでしょう。しかし相続人が1人もいない場合や、相続人が2人以上でなおかつ財産がある場合、後見人をつけることでトラブルを防げます」