ビッグネームから得た勝利を引き金に急成長中の遅咲きのサウスポーは、初戦で戦うには決して簡単な相手ではない。しかしだからこそ、突破することにより加速が付く、格好の試金石だと見ることもできるだろう。
そうなるとその先は……と、例え錦織本人は望まなくとも、やはり先々の展望が気になってしまうのは周囲の常。準々決勝で対戦の可能性が高いのはガエル・モンフィスかマリン・チリッチで、チリッチは先のウィンブルドンでベスト8、モンフィスも先週のカナダ・マスターズベスト4と好調だ。特に29歳のモンフィスは、昨年末から新たなコーチやトレーナーを携え「勝負のシーズンにする」と公言してきた。その決意を証明するかのように、今季はツアー随一と評されるアスレティックなプレーを成績に結び付けている。そのモンフィスが来るか、あるいは2年前の全米優勝者のチリッチが勝ち上がるか……いずれにしても準々決勝が、メダル獲得への大きな障壁となるのは間違いない。
そのハードルを越えられれば、後はどのステージで勝つかによってメダル獲得か否か、あるいは何色のメダルかが決まる訳だが、そこはもう誰が居るのか、何が起こるのか予測困難な領域。ちなみに、歴代最長1位記録等を誇るフェデラーに五輪シングルスの金メダルはなく、現王者のジョコビッチも4年前のロンドン大会ではメダルを逃している。そのロンドンで銅メダルをかけ死闘を演じたジョコビッチとフアン・マルティン・デルポトロが、今回のリオでは初戦で当たるという運命的なカードが実現した。ランキングや過去の実績では計りきれない何かが起きるのが、やはりオリンピックの魔力なのだろう。