さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第6回は日本の那覇空港から。
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そうまでしてLCCターミナルを使いたいのか……。
ついため息が出てしまった。台湾の桃園国際空港からピーチ・アビエーションというLCCに乗った。行き先は沖縄の那覇空港。片道6000円ほどの運賃はありがたかったが、到着ターミナルはLCC専用ターミナルだった。
LCCが安い運賃で運行できるからくりはいくつもある。機内食を廃止し、預ける荷物を有料にしたのもそのひとつ。利用料の安い空港を利用し、ボーディングブリッジなどの空港設備は使わず、乗客は徒歩で飛行機まで進む……。わかりやすい経費節減策だった。世界の空港は、利用料の安いLCC専用ターミナルをつくっていった。シンガポールのバジェットターミナルがその典型だろうか。
しかしその後は、LCC専用ターミナル廃止や建設中止の方向に動いていった。専用ターミナルではなく、従来のターミナルとの混在利用を目指したのだ。理由はLCCと従来の航空会社との区別がつきにくくなってきたからだ。 LCCでも軽食を出し、預ける荷物を無料したた会社もある。従来の航空会社でも、予約システムにLCCの手法をとり入れ、機内食を簡素化する会社も出てきた。座席幅をLCC並みにしたところもある。LCCであることを区別する必要がなくなりつつある。
そんな状況のなかで、日本のLCCは欧米や東南アジアに比べて周回遅れの進み方をしている。2012年、那覇にLCC専用ターミナルができ、成田空港にも昨年、LCC専用の第3ターミナルができた。
できてしまったからには、使わなくてはならない。那覇空港はその典型にも映る。那覇空港に国際線を就航させているのは15社。そのなかには、タイガーやジンエアーなどのLCCも含まれている。そのほとんどが、従来の国際線ターミナルを使っている。国際線でLCC専用ターミナルを使っているのはピーチだけなのだ。
ピーチのためだけにイミグレーションのブースをつくり、わざわざ職員が向かう。LCCというものに振りまわされた徒労感が漂っているようにしか思えなかった。
不便さは、かつてLCCをアピールする手段だった。那覇のLCCターミナルから専用バスに乗り、国内線ターミナルに向かう。それしか方法がない。タクシーもなく、歩いて向かうこともできない。乗客は、専用バスが到着する国内線ターミナルからゆいレールやバスなどに乗らなくてはならない。
台北からの便が到着したLCCターミナルのイミグレーションには長い列ができていた。圧倒的に台湾人が多い。日本人は数人である。僕は簡単に入国手続きを終え、バス乗り場に向かう。しかしバスは、やがてやってくる台湾人を待ってからの発車になった。20分近く待っていただろうか。
やはり周回遅れの空港だった。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など