「築地のどんぶり屋」の海鮮丼。まさに、目利きの海鮮丼だ(撮影/岩崎有一)
「築地のどんぶり屋」の海鮮丼。まさに、目利きの海鮮丼だ(撮影/岩崎有一)
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 2016年11月に豊洲への移転を控える築地市場。約80年に及ぶ築地市場の歴史を支えてきた、さまざまな“目利き”たちに話を聞くシリーズ「築地市場の目利きたち」。フリージャーナリストの岩崎有一が、私たちの知らない築地市場の姿を取材する。

 築地市場の“場内”といえば、われわれがイメージするのは「仲卸」だ。でも実際には、どんな仕事をしているのか知らない人の方が多いだろう。今回は築地を代表する仲卸「やまふ水産」の目利きに話を聞いた。元力士が魚の目利きになるまでには、10年の月日がかかったという……。

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 築地市場は多様な職種に就く人々で構成されているが、われわれがイメージする“場内”の雰囲気を醸しだしている仕事といえばやはり、仲卸だ。仲卸は、大卸と呼ばれる卸売業者が各地から仕入れた魚をせり落とし販売している。せり落とすだけでなく、近年は大卸や各漁港から直接魚を購入する相対取引の割合がぐんと増えたとも聞く。

 仲卸で魚を買うのは、街の魚屋やすし屋、料理店などの小売業者がほとんどだが、一般客でも仲卸での買い物は可能だ。仲卸は、魚を求める全ての人々にとって、その窓口となっている。

 現在築地市場には、600を超える仲卸業者が店を構えている。マグロ、カジキなどの大物を専門とする店や、貝ばかりを扱う店、エビ専門店など、仲卸と言っても実にさまざまだ。ゆっくりと訪ねてみたい店が、幾重にも続く。店先に並ぶ魚介を眺めながら築地の場内を練り歩いていると、この地球上で食べられているすべての魚が、ここ築地に集まっているようにさえ思えてくる。

 今年の3月、ご縁を頼りにやまふ水産を訪ねた。「やまふ」は、場内に出入りする人々なら誰もが知る仲卸大手の一つ。ほぼあらゆる種類の魚介を一手に取り扱う店だ。

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