「今は11店舗(分のスペース)。豊洲では16店舗になるんだ。24メートル分。店舗前のスペースがないと、仕事にならないからね」
こう話してくれたのは、やまふ水産社長の渕上さん。確かに、ピークが始まってからの店でのやりとりを見ていると、対面販売が大切であることに気づく。買い付け客は、その場で魚を見定めていくのだから、魚を見せ、魚を魅(み)せなければならない。店づくりを丁寧に念入りに行っていたことに納得。
店のピークが始まると、とうとう私の居場所がなくなってきた。ノートとペンを持って邪魔にならない場所を探して動き回るものの、それも限界。どこに立っていても、邪魔になる。そんな私の様子に気づいてくれたからか、渕上さんが私に声をかけてくれた。
「昼飯食ったの? ここに、今、行ってこい。ちょっと休んできな」
そう言って、ご自分の名刺を私に渡した。裏には、やまふが昨年12月に開いた「築地のどんぶり屋」への地図が手書きで書かれていた。朝8時半、私は昼飯を食べに場外へ出た。
店に着き、海鮮丼を注文。大トロ、タコ、有頭エビ、いくら、うに、ブリ、アジなど、身の厚い刺し身がふんだんにのった海鮮丼をほおばった。どう見ても、米よりも刺し身のほうが多い。刺し身の身は厚く、一切れ一切れが格別の味わい。もったいなくてかき込むことができない、ぜいたくな海鮮丼だった。アジの血合いは鮮やかな桃色。すぐそこに仲卸があるからこその、この海鮮丼だとも思った。
ブリを噛み締めながら、私は、橘さんが話してくれたことを思い出した。