もっとも、田中の速球が通じないというわけでは決してない。3回にはカノに対して2-0からフォーシームを2球続けた後、ツーシームで内野ゴロに仕留めている。ただし走者を背負った場面などではやはり変化球が主体。5回には青木の三塁打の後、続くスミスにスプリッターをタイムリーヒットとされた。このあたりはヤンキースバッテリーの配球の問題や、マリナーズ側の研究の成果とも言えるだろう。
次に相違点だが、この日はコントロールの精度が5四死球を出した前回と段違いだった。奪三振はほとんどが低めのストライクゾーンからボールゾーンへ落ちるように絶妙な制球がなされたスプリッター。有利なカウントを整えておけば、打者はこのボールを簡単には見逃せない。早めに相手バッターを追い込めたことが6奪三振と無四球、ひいては93球で7回を投げ抜く成果に結びついた。
上記の分析から読み取れるのは、少なくとも現在は岩隈の後輩だった楽天時代のような、剛速球で相手をねじ伏せる田中将大ではないということ。その一方で、状況さえ整えれば、来ると分かっていても140キロ近くで落ちるスプリッターはメジャーの打者でも容易にはとらえられないということだ。剛腕マー君の快刀乱麻を期待したファンには物足りないピッチングかもしれないが、このスタイルを確立できれば、球数を抑えて耐久力の不安を払しょくできるかもしれない。そういった意味では、今後につながる収穫の多いゲームだった。
次の先発予定は現地23日のレイズ戦。今回と同じく本拠地でのデーゲームだ。プレーボール時に約17度だったこの日のように、空模様が問題なければ陽気も田中に味方してくれるはず。主砲エバン・ロンゴリア、若手有望株スティーブン・ソウザら要注意な打者はいるものの、チーム打率が2割そこそこなようにレイズ打線はそこまで強力ではない。粘って四球を選ぶいやらしいタイプの打者も少なく、スプリッターのコントロールさえ決まれば、再度の好投が高確率で期待できそうだ。