「新安保法制の議論が活発化していた14年当時、防大では学生指導の総元締だった訓練部長(海将補)の指示で、任官拒否者は卒業式への出席を自粛してもらうことになったと聞いています。この措置は卒業生の間でも賛否が分かれています」

 防大生は防衛省の職員という扱いとなり、学費は無料で給料も支給されるため、任官を拒否した防大生は“税金泥棒”“裏切り者”と批判されることも少なくない。だが、意外にも、幹部自衛隊官のなかには、任官拒否者に「寛容」という現実もある。

「4年間の教育・訓練で悩みに悩んだ末に、幹部自衛官となるか、制服を脱ぐか、迷いに迷った末の決断だと思います。任官拒否者を、世間で言われているように“裏切り者”という意識は防大で学んだ者にはいません。同じ防大で学んだ仲間なのです」(元陸将)

 自衛隊は任官拒否者よりも深刻な問題として捉えていることがある。“隠れ任官拒否”だ。これは、防大を卒業後、一度自衛官に任官して、一年以内に退職してしまう人を指す。

「幹部自衛官として歩んでいくと卒業式で誓ったのに、即に『辞めます!』では筋が通らない。国民に対して嘘をついたということですよ。彼らには厳しく対処すべきです。なぜなら、自衛隊の要員計画や編成が狂ってしまう。防大を卒業して任官した人は、防衛計画の人員の頭数に入っています。すぐに退職されると非常に迷惑してしまう」(前出の元陸将)

 実際、防衛省、陸・海・空の各幕僚監部も“隠れ任官拒否”に頭を悩ませているのだ。彼らにとって、任官拒否よりも“隠れ任官拒否”のほうが厄介な問題なのだ。

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