「おわら風の盆は祭りではありません。地元民が楽しむ年中行事です」(同)

 庶民の伝統芸として引き継がれてきたおわらに、熱い視線を注ぐ芸能・舞踊関係者も少なくない。多くの芸能人や文化人が毎年、お忍びで訪れるとか。町の長老は若者に「どんな芸達者な人が見ているかもしれないから、一瞬たりとも気を抜いてはいけない」と指導する。芸に対する厳しさが、おわらを支えている。今年2月に他界した、歌舞伎役者の坂東三津五郎さんも、たびたび足を運んでいたらしい。

「いかにも役者という風に、大勢の人を引き連れてくる人に対して私たちは厳しい。その点、三津五郎さんは逆です。静かに町流しを見ていらっしゃいましたよ。歌舞伎ファンでなければ気づかなかったでしょう……」(同)

 三津五郎さんも、おわら風の盆をこよなく愛していたようだ。
 
 越中八尾観光協会によると、9月1日、2日は八尾小学校が演舞場となり、午後7時から9時半ごろまで競演会が開かれる。また両日は、日中が午後3時から5時まで、夜は同7時から町流しが行われる。余すことなくおわら風の盆を楽しむには、日中に明るい町並みの中で町流しを見て、早めの夕食をとった後、競演会を時間いっぱいまで観賞し、夜の町流しへ……という順路がおすすめだそう。

 ちなみに写真撮影で、むやみにフラッシュをたくのはご法度。交通規制が解かれた深夜に自動車で町内へ乗り入れるのも厳禁だ。騒音を立てたり、おしゃべりしたり、人混みをかき分けて前に出たりせず、静かに観賞するのが暗黙のルールだ。

 今年は北陸新幹線の開業元年であり、おわら風の盆にも多くの人出が予想される。人口2万人ほどの小さな町に20万人以上の観光客が訪れる9月の本番を避けるのも賢明だ。8月20日から30日まで行われる前夜祭では毎日、当番の町が順に自町で町流しを披露する。この時期なら八尾町内の宿泊施設を利用することが可能で、富山市内のホテルも満室にはなりにくい。

 前夜祭中にゆったりと滞在して11町の踊りを見尽くす、または前夜祭を何度か観賞し、数年かけて11町を制覇する……。高橋さんや三津五郎さんが愛した、おわら風の盆にはいろんな楽しみ方がある。

(ライター・若林朋子)