「東京の卸業者にPRするためには、単独よりも複数で伝えた方が影響力が大きい。そのPRを卸だけでなく、一般消費者にも直接伝えたいと思い、試飲会を企画しました。そして平行して各地の酒蔵同士で情報交換や技術交流をし、より品質の高い日本酒づくりを確立することも行ってきました」(今田社長)

 こうした目的もあり、「11PM」は、昼は業者向け、夜は一般向けに試飲会をするのが恒例。この日も日中業者向けに行われていたのである。

 派手な宣伝広告は行わなかったため、さほど目立つことはなかったが、卸業者や熱心な日本酒ファンを中心にその活動は着実に浸透した。一方で情報交換を重ね各蔵の品質向上も進み、それが今日の日本酒人気となってようやく形になって来た、と今田社長は捉えている。

 実際、こうした「11PM」スタイルの「チーム力」は、ほかにも広がりをみせる。先にも出た『新政』を作る新政酒造も、地元秋田の5蔵で形成する「NEXT5」のひとつ。「11PM」同様に都内で試飲会を開催するほか、5蔵共同製造の銘柄を企画し、「チーム力」で秋田の日本酒の魅力を伝えている。他にも今田酒蔵本店も加わる広島の「魂志会」や、長野県佐久の酒蔵13が集う「SAKU13」などがある。ただ、全国の酒蔵が一堂に会する「チーム力」は、「11PM」のほかにはないようである。

 そしてこの「チーム力」は、日本酒ファンにとっても大きなメリットがあるようだ。40代の男性は、自他ともに認める日本酒ファン。自らも日本酒イベントを企画するが、「複数の新酒が同時に楽しめるのは日本酒好きにはたまらない。酒蔵の社長と会えることも大きい」とうれしそうに語る。

 30代の男性は「最近日本酒を飲みはじめたのですが、知らないけれどおいしい日本酒があることを今回知ることができました。また次回も来てみたい」と満足げ。会場には女性の姿も多く、その一人で近隣の企業に勤める30代の女性は、「日本酒はもともと好きで、この会場は職場と近いので気軽に参加できた。アクセスしやすい場所で開催されれば、今後も参加してみたい」と都心開催のメリットを語っていた。

 注目すべきは、参加者の多くが単身ではなく、複数人の「チーム」で参加していたことだ。前出の30代男性は知人の日本酒好きに誘われ3名で参加。30代女性は「11PM」に参加する酒蔵社長とサイクリングつながりで、ほかの自転車仲間とともに参加した。40代男性は一人であったが、会場には既存の日本酒仲間が多数いたようで、その交流の場として「11PM」に参加していたという。

 日本酒人気の隠されたキーワード「チーム力」。それは作り手だけでなく、飲み手にも通じるものであった。

(フリーライター・種藤潤)