パ・リーグのクライマックスシリーズ(以下CS)ファイナルステージは、1勝のアドバンテージがあるソフトバンクが4勝3敗で日本ハムを退けた。

 ソフトバンクは04・05・10年の3回、ペナントレースを1位で通過しながらCSで敗れ、日本シリーズ進出を逃すという苦い経験を持つ。それに対して、日本ハムは、ペナントレースを1位で通過した05・06・09・12年の4回、プレーオフ、CSで勝ち上がってきた下位球団を退けている。

 短期決戦に強いのが日本ハム、弱いのがソフトバンクと言っていいだろう。この両球団はチーム作りでも大きな違いがある。

 細川亨、内川聖一、鶴岡慎也、中田賢一、寺原隼人、帆足和幸がFA移籍で、李大浩、ウルフ、スタンリッジ、サファテの外国人が他球団からの移籍というソフトバンクに対し、日本ハムは稲葉篤紀が形の上でだけFA移籍だ。希望していたメジャーからのオファーがなく、行き先が宙に浮いていたときの日本ハム入団で、実質的にはFA移籍とはいえない。FA移籍はそれ以外ゼロで、他球団経由の外国人もゼロだ。

 さらに、日本ハムは主力野手に高校卒が目立って多い。レギュラー級では近藤健介、中島卓也、中田翔、西川遥輝、陽岱鋼が高校卒である。ソフトバンクは今宮健太、中村晃くらいしかおらず、あとは大学卒や移籍選手などが主体になってチームを形成している(内川聖一など移籍選手は高校卒としてカウントしない)。ソフトバンクが変っているのではない。日本ハムが球界の常識と異なった発想でチーム作りをしているのである。

 投手陣も同様で、主力をくらべると日本ハムは数こそ少ないが、吉川光夫、中村勝、上沢直之、大谷翔平が高校卒で、対するソフトバンクの高校卒は武田翔太くらいしか見当たらない。本当に何から何まで異なる球団で、このチーム作りの差は戦略面の違いにも表れている。

 顕著な例は盗塁だ。3点差以内のゲームが多かった今シリーズ、積極的に盗塁を仕掛け、膠着状態を打ち破ろうとしたのは日本ハムのほうだ。盗塁企図は日本ハム10対ソフトバンク3と圧倒的な差があった(日本ハムの盗塁成功は7個)。トレード組が中軸を形成するソフトバンクに力対力の勝負を挑まず、かき回して、混乱させて勝機を見いだそうとしたことがわかる。

 ちなみに、僅少差の試合では盗塁が活路を開くというデータがある。2連覇した第2回ワールドベースボールクラシック(WBC)で日本代表は勝った7試合すべてで盗塁を敢行した。一方、0対1、1対4で敗れた韓国戦では盗塁企図さえ1つもなかった。「盗塁は金縛りを解く特効薬」というのがそれ以来、持論になった。
 
 そして、そうまでしてもソフトバンクの牙城は崩せなかった。ソフトバンクの強さが浮き彫りになるデータだろう。

 今シリーズの白眉は、日本ハムが延長11回の末、6対4で勝った10月19日の第5戦だ。2回裏にソフトバンクが4点を入れ、日本ハムは6回までスタンリッジの前に散発3安打に抑えられ、敗色濃厚という展開だった。それが7回に4安打をつらねて3点を入れ、8回には中田がソロホームランを放って同点にする。

 試合は、シリーズ初の延長戦に突入し、11回表に試合が動く。1死一塁の場面で、途中出場の谷口雄也が投手安打を放って一、二塁とし、9番大野奨太が三塁安打を放って満塁とする。1番西川は三振して2死になるが、2番中島卓也が1ボール2ストライクからの4球目、内角低めのストレートをシャープに振り抜いて、ライト前に達する2点タイムリーを放ち勝負を決めた。内野安打2本を絡めてチャンスメークし、ワンチャンスをものにするという流れは日本ハムにとって理想的だった。

 こういう劇的な試合を勝って、3勝3敗のタイにした日本ハムが最終戦を有利に進めると思ったが、ソフトバンクの牙城は揺るがなかった。

 日本シリーズを考えると、瀬戸際まで追い詰められながら、それをうっちゃってファイナルステージを勝ち抜いたソフトバンクに対して、負けなしの4連勝で波乱なく日程を早く終えた阪神は、明らかに分が悪い。CS突破の翌日から日本シリーズまでの数日間をいかにして緊張感を持続して過ごすか、監督、コーチの腕のみせどころになる。
(スポーツライター・小関順二)