今「ガリレオ」と言えば、テレビドラマの主人公、福山雅治演じる天才物理学者のことだ。日常生活でも科学を信奉するあまりの奇異な言動の数々から、ついたあだ名が「変人ガリレオ」。演じる福山のカッコ良さとのギャップは、ドラマが人気を博す理由の一つだろう。
では、ガリレオ・ガリレイと同じイタリアの歴史上の人物、ダ・ヴィンチが美男で伊達男だったというと、どれだけご存じの方がいるだろうか。これが本当のことらしい。私たちが知っているダ・ヴィンチと言えば、額が禿げあがった老人の姿の自画像。しかし、師匠であったベロッキオ作のダビデ像(ミケランジェロとは別の像)のモデルはダ・ヴィンチだったという説もあるほどで、写真で見ると、確かに美男だ。
『ビジュアル ダ・ヴィンチ全記録』(日経ナショナル ジオグラフィック社)を読むと、この稀代の天才の意外な“顔”がたくさん見えてくる。「君主論」のマキアヴェッリや数学者ルカ・パチョーリが友人だった。しばしば小説で毒殺の代名詞として登場するチェーザレ・ボルジアに軍師として雇われていた。同じルネサンスを代表する美術家、ミケランジェロからは嫌われ、ラファエロからは慕われ絵にも描かれた――。
それぞれのエピソードは、一見、無関係に思えるが、故郷ヴィンチ村からフィレンツェ、ミラノ、フランスと活躍の場所を変えながら、様々な出会い(時に経済的事情)が新たな関心を生み、育て、やがてはそれに通暁してしまうダ・ヴィンチの生きざまの中では、一貫している。100点近いダ・ヴィンチの作品や手稿に加えて、関連図版136点がダ・ヴィンチの人物理解を助けてくれる。ダ・ヴィンチが自分を売り込む手紙では、「建築にかけては誰にも負けない」と大風呂敷を広げ、世渡り上手な芸術家の姿も垣間見せてくれる。
月並みな言い方だが、ダ・ヴィンチは美術家の枠に収まらない人物だ。今で言うロボットを作り、人が空を飛ぶアイデアを具体的に描き、ガリレオ以前に自由落下の本質を見抜き、黄金比をはじめ絵画を数学的に描こうとし、飽くなき探求心は解剖学者とも言えるおびただしい数の素描を残す。
それでいてチャーミングな人でもあったようだ。現在、東京・上野の東京都美術館で開催されている「レオナルド・ダ・ヴィンチ展 天才の肖像」では、本書にも収録されている「アトランティコ手稿」と呼ばれるダ・ヴィンチのノートが、見どころの一つとして公開されている。ダ・ヴィンチの手稿が5000ページ以上も今も消失せずに残る事実は、彼がいかに弟子たちから慕われていたかを、如実に物語るものだろう。
ダ・ヴィンチを語るとき、天才という言葉さえ陳腐なのは、彼が描いた作品以上に彼こそが作品だったからかと思える。
【関連サイト】
ビジュアル ダ・ヴィンチ全記録 スペシャルページ
http://www.nationalgeographic.jp/nng/sp/davinci/