3月に開催される第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3連覇を目指す日本代表チーム。

 過去2大会で日本が優勝した理由については、野球評論家から「スモール・ボールだったから」と評されることが多い。スモール・ボール(スモール・ベースボールとも言う)とは、バントなど小技を駆使した緻密な野球のこと。長打力を重視するアメリカ流のビッグ・ボールの対語として近年使われている言葉だ。

 2009年に阪神タイガースを引退し、現在は野球解説者の赤星憲広氏は、著書『頭で走る盗塁論』で今こそスモール・ボールの真の意味を知るべきだと語っている。

 2011年に日本プロ野球界が統一球を導入したのをご存じだろうか。WBCなど国際試合をすることが多くなったことから、そこで使用されているものに近いミズノ製のボールに統一された。これは「飛ばないボール」と言われ、ホームラン数は激減。さらに昨年からストライクゾーンが拡大したことから打者の平均打率は下降した。かつて一流打者の証といわれた三割打者は現在、両リーグ合わせても10人しかいない。

 このように打者に不利な現状で、勝利を勝ち取る戦術が「足を絡めた機動力野球」だと赤星氏は言う。5年連続セ・リーグの盗塁王を獲得したこともある氏は「ヒットが出ない、長打が出ない。そういった試合が続く中でも、盗塁をして次の塁を取る。また足を意識させることにより、相手のミスを誘う。足を使うことによって、本塁打を打って勝つ野球と遜色のない攻撃ができる」と断言する。

 赤星氏はよく「ヒットをたくさん打って塁に出る機会が多いから盗塁も多いんだ」と言われていたそうだが、実はそこには誤解があると言う。盗塁をするために、投手の投球パターンとクセ、捕手の配球とクセ、野手の守備位置などなど、必死になって情報を収集しようとするから、結果、打率がよくなるというのだ。

足で稼ぐと思われがちな盗塁だが、実は頭脳勝負だった――。日本がWBCで3連覇を果たす鍵も、そこにあるかもしれない。

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