ところが、事態は思わぬ速度と規模を持って世界を揺るがすこととなった。周知のとおり、世界各地に疾病が飛び火し、社会不安が世界規模で増大していったからだ。しかも、タイでは日本が重度の感染国とされてしまったのである。

「いまのところタイ国内で感染するリスクはあまり高くないでしょう。一方で、(感染国である)日本からの来タイについて、当局の扱いが厳しくなっています」

 バンコクの友人・井上毅さんから連絡が入ったのが2月29日のことだった。

 井上さんは盤谷日本人商工会議所の専務理事。お互いの鉄道好きが縁で、取材やプライベートで貴重な情報やアドバイスをしてくれる頼もしい同志だ。

 井上さんによれば、バンコク到着時にもし発熱等が確認されると隔離措置が取られることも伝えられたが、その前の週に北海道から帰国したタイ人が発病したことなどを受け、当時開催が予定されていたサッカーW杯予選について、日本のJリーグでプレーしているタイ人選手を招聘すべきでないといった議論まで噴出しているという。

「正直なところ、日本からの来タイをお勧めできる状況ではなくなってしまいました……」

 そうこうしているうちに、予約しておいた航空会社からSMSが携帯電話宛に届いた。往復ともにフライト時刻が1時間ほど遅れるとの案内なのだが、見ると便が予約と違っている。いずれにせよSMSの文面からはいまひとつ判然としないので航空会社に電話を入れるものの、これがさっぱりつながらない。

 そこで航空会社の公式WEBサイトから問い合わせたところ、折り返し電話が入った。

 それによれば、バンコク便の一部ですでに運休が決まったため、予約を同社別便に振り替えたとの由。他社便への振り替えも可能だが、変更後の他社便も今後運休になる可能性があるのと、タイ当局側の対応によっては入国に支障をきたすことも考えられるので、「渡航をお控えになるほうが無難に思えます」と親身なアドバイスをいただくことができた。購入した航空券は割安な「正規割引航空券」で、本来であれば払い戻し手数料の額もバカにできないレベルだったが、キャンセルが希望であれば、払い戻し手数料なしで全額が払い戻しになるということで、その場でキャンセル手続きを進めてもらうことになった。

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現地の状況は日増しに悪化