落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「売り切れ」。
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販売店で店員さんに「○○はありますか?」とか聞くのが苦手。入店したら、当然ながら欲しいモノはまず自分で探す。あるはずの場所にそれが無い場合、ことによると売り場を変えたという可能性もある。とにかく店中を隈なく探す。執念深い老刑事のように、時間をかけて、端から順にシラミ潰しに探す探す探す。店の中を何周もぐるぐる歩き回る。不審に思った店員に「何かお探しですか?」と声をかけられても「いや、大丈夫です……」とスルーする。
やっぱりどうしても無い場合。私は諦める。最後まで店員には頼らない。なぜだろう? 初めから聞けば早くないか、俺。「売り切れです」の一言を聞けば時間を無駄にせずに済むじゃないか、俺。どうかすると在庫がバックヤードにあって、まだ荷出ししてないだけかもしれないじゃないか、俺。なぜ俺はこんな強情を張ってまで自分の力だけで探そうとするのか、俺。
そうです。単純に「売り切れです」と言われるのが嫌なのです。悲しげに「そうですか、また来ます」と言うのが嫌なのです。「それを欲してこの店までわざわざ来たのに、誰かに先んじられて手に入れることが叶わなかった哀れな男」と店員に思われるのが本当に嫌なのです。
今回のマスク不足で私も薬店にマスクを買いに行きましたが、勿論どこにもありません。ないな、ないな、と思いつつ、やはりいつものように店内をぐるぐるぐるぐる……。前述のように、「あ、マスク買いに来たのね。遅ぇんだよ(笑)」と思われるのが悔しいので、とりあえず「おー、あったあった!」みたいな空気を出しながら、必要のないサラサラボディシートやのど飴を「いかにもこれを買いに来たのだよ」的にレジに持っていくので、私のカバンにはそんないらないモノが溢れています。
小4の頃、必死で貯めたお小遣いを握って当時品薄だった「ファミコンの本体」を買いに、街のおもちゃ屋に行きました。たしか1万4500円だったと思います。大金。貼り紙を見ると「大人気! ファミコン本体入荷! ソフト4本付きで2万円!」と書いてあります。そうです。店の親父が売れないクソゲーを抱き合わせにして売っていたのです。「お金足りないや……」。泣きそうになりました。いや、泣いていたかも。夢にまで見たファミコン本体が目前にあるのに……。親父がこちらを見ています。「どうしたの?」