■「落ち込みの理由がない」ことが荷下ろしの苦痛を拡大する

 いろいろな制約から解放される「荷下ろし」は、うつを引き起こす、ひとつの典型的なタイミングです。

 図の、「過重労働」のときには疲労がかさみますが、一時的にアドレナリンが出ており、不安や苦痛を感じずにやり過ごすことが可能です。

 ところが、その過重労働がひと段落したとき、アドレナリンが切れて、本来感じるべき苦痛を「一気に」感じ始めるのです。

 本人は、大変な出来事も終わったのに、どうして自分はこんなに体調が悪く、自信がなくなり、何をするのもおっくうで明るくなれないのかわからず、途方にくれます。

 つまり、落ち込みの理由がないことが、自信を失わせ、「荷下ろし」の苦痛を大きくするのです。

 荷下ろし状態で疲れ切っていたその人は、その状態でもなお、再就職先で仕事を続けていたそうです。本来の彼なら、難なくこなせる仕事量です。それまでの仕事に比べれば、楽な仕事です。「これぐらいで自分はへこたれるはずがない」――。

 頑張り屋さんの彼は、笑顔を絶やさず、しかし、とうとう退職後3年目にうつの波に飲み込まれ、亡くなってしまいました。

■がくんと落ち込みが来たら「疲労のデータ」を取ろう

 定年後、2~3年のタイミングで亡くなる人は、意外と多いのです。大きな環境変化をきっかけに蓄積疲労が悪化し、その後数カ月遅れで表面化してくるうつを、私は「遅発疲労」と呼んでいます。

 疲労は、目に見えません。

 だからこそ、がくんと来たら、「ああ、やってきたな」と思って、しっかりと休みをとって、疲れを癒やすことが大切です(図の点線)。

 蓄積疲労をためて「荷下ろし」状態にならないために、ここから先、始めたいのが、なるべく疲労の1段階、つまり「休息すれば回復できる自分でいられる」ための工夫です。

 うつからのリハビリの際、私は、クライアントに「この行動をした結果、このぐらい疲れた」というデータを取ってください、とお願いしています。落ち込みが来たら、「疲れているからだな」と理解し、「データが取れた」と思って、休んでみる。すると本当に回復するのです。

 人は、何も理由が思い当たらなくとも、うつになる。そして、疲労はこまめにケアをすることが大切です。ぜひ、覚えておいてください。(取材・構成/柳本操)