こうした努力の甲斐もあって、高校時代からの夢だった「東大英語」の授業を担当するカリスマ講師となったわけだが、そこで目の当たりにした予備校業界の現実は厳しいものだった。

「よく『お笑い芸人の世界と同じ』と言われるのですが、この業界もずっと“上”が詰まっていて、若くて優秀な講師たちの活躍の場がほとんどないんです。僕が予備校講師になったころ、すでに30代の方が“若手”として存在していたのですが、彼らは40代半ばを過ぎた今でも、このままだと50代になってもずっと若手扱いでしょう。若手なので当然、収入も多くは望めません。“予備校バブル”の時代には年収1億円超えのカリスマ講師が何人もいましたが、今の若手はその10分の1の収入さえもらっている人はごくわずか。さらにその下の30代、20代となると、1ヵ所の予備校だけでは生活できないという人が大半。そのうえ、予備校講師は人気がないといつ切られるか分からない、不安定な職業でもありますしね」

 遅々として進まない世代交代、その要因の一つには大手予備校の経営方針もあるという。

「基本的に、予備校側は『ウチに来ないと〇〇先生の授業は受けられませんよ』といった具合に自社が抱えている講師の“持っている知識”を隠したがる。そうなると、すでに知名度があるベテラン講師にばかり生徒が集まり、結果、ますますベテランが重宝される。こうしたサイクルがずっと続いていて、実力のある若手講師を売り出そうとしないんです。若手の中には知名度のあるベテラン以上に実力があって、洗練されていて、今の受験にマッチした教え方ができる先生もいますから。才能があるのに埋もれている若手があまりにも多すぎるというのが実感です」

 そのうえで、こう続ける。

「僕自身、ずっと予備校講師をやって来て、YouTuberをやってみて思うことは、『知られなければゼロと同じだ』と。どんなにすごい知識を持っていたり、どんなに教え方が上手くても、世に出なければ“無”と変わらないんだということを実感したので。だからこそ、埋もれている才能ある若手講師を発掘し、その活躍の場を作りたいとも思っているんです。『ただよび』が成功すれば、オーディションをしたりしてさまざまな教科のそうした講師たちを集めることもできますし、その素晴らしい講義を多くの受験生たちに無償で提供することもできますからね」

 教育の無償化や教育格差の解消、さらには若手講師の発掘も視野に入れ、2人のカリスマ講師によって始動した前代未聞のYouTubeの予備校は大学受験の世界に新風を吹き込むことになりそうだ。(三杉武)

※週刊朝日オンライン限定記事

著者プロフィールを見る
三杉武

三杉武

早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身し、記者時代に培った独自のネットワークを活かして芸能評論家として活動している。週刊誌やスポーツ紙、ニュースサイト等で芸能ニュースや芸能事象の解説を行っているほか、スクープも手掛ける。「AKB48選抜総選挙」では“論客(=公式評論家)”の一人とて約7年間にわたり総選挙の予想および解説を担当。日本の芸能文化全般を研究する「JAPAN芸能カルチャー研究所」の代表も務める。

三杉武の記事一覧はこちら