指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第15回は「技術以外の指導」について。
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東京辰巳国際水泳場近くの遊歩道の桜並木は、毎年4月の日本選手権の前後に見ごろになります。今年は花盛りのときに近くに完成した東京アクアティクスセンターで開幕するタイミングでしたが、大会が中止となっていつもと違う春を迎えました。
多くの学校で休校が続く中で新学期がスタートしました。新入生は生活ががらりと変わり、慣れるまで時間がかかります。練習を軽めにするなど、ゆっくり始動するようにしています。
新入生には、よく話しかけています。ごはんを食べてきたか、派手なTシャツ着てるな、そんなたわいのない会話が多いのですが、一番大事なのは「関心を持つこと」です。そこからコーチングは始まります。
競技のパフォーマンスが高くて活発な選手は、チームにも溶け込みやすい。引っ込み思案で目立たないような選手は、ちょっとした変化を見逃さないように、意識して声をかけます。コミュニケーションがうまくとれるようになれば、指導する側の意図がきちんと伝わって、競技力の向上につながっていきます。
東京スイミングセンターで北島康介を始めとしたジュニアの選手を教えていたころから、あいさつなど社会常識を身につけさせる指導は、泳ぎの技術と同じ比重で大切にしてきました。
競泳は個人競技ですが、多くの人の協力が不可欠です。五輪で金メダルを取るレベルになるには、周囲の人から「この選手を応援したい」と思われるような人間的な魅力が必要になると思います。そのベースに礼儀があります。
まずは、私から積極的にあいさつするようにしています。毎日、繰り返していると、選手も「あいさつしなきゃ」という気持ちになってくるようです。