山口慎太郎東京大学経済学部・政策評価研究センター教授。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)でサントリー学芸賞(2019年度、政治・経済部門)を受賞(写真=本人提供)
山口慎太郎東京大学経済学部・政策評価研究センター教授。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)でサントリー学芸賞(2019年度、政治・経済部門)を受賞(写真=本人提供)
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 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で休校が続く大学。対面での授業がいつから可能になるかは不透明な状況で、多くの大学が授業のオンライン化に試行錯誤している。そのようななか東京大学は、3月31日にいち早く「授業は当面オンラインのみ」と表明し、4月にはインターネット環境の整備が困難な学生向けにモバイルWi-Fiルーターの貸し出しも行った。実際に授業はうまくいくのだろうか。「定員オーバー」で話題の大人気講義を追った。

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「授業がトレンド入りするのはやばい #現代経済理論2020」

 4月10日金曜日の11時、ツイッターに驚きの声が上がった。東京大学教養学部の授業「現代経済理論」についてのツイートだ。「トレンド」とは、ツイッターが独自のアルゴリズムで算出する、今まさに盛り上がっているキーワードのこと。ハッシュタグ「#現代経済理論2020」は日本エリアでのトレンドで、一時8位にランクインした。

 ツイートを見てみると、「履修確定」「おもしろかったから105分あっという間だな」などのコメントも。他方、「#現代経済理論2020 ってなんですか…(来週聴いてみよう)」など、トレンド入りしたことで授業の開講を知った人もいるようだ。

 東大のホームページで公開されているシラバスには、「『経済学?( ゜Д゜)ハァ?』『経済学www』といった知的態度の学生の履修も強く歓迎する」と書かれている。いったいどのような授業だったのか。

 この日のテーマは「データ分析で社会を変える」。世界中のIT企業が経済学者を必要としているという導入から始まり、因果関係と相関関係の違いを説明。後半はカナダで行われた保育改革の具体的な分析手法にまで話が及んだ。さらには「ちょっと脱線」として、「BCGでコロナは防げるか?」という興味深いトピックも展開された。

「もともと、理系も含めて幅広く多数の学生に経済学を志望してもらうために始めた授業なんです」と話すのは、4月10日の授業を担当した山口慎太郎教授。山口教授は、結婚子育てなどを経済学の視点で分析した『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)を昨年刊行し、サントリー学芸賞を受賞した気鋭の経済学者だ。

「経済学は文系の学問のなかでも、とくに数学を重視する学問です。しかし、3、4年生が通う本郷キャンパスで授業をするだけでは、理系の学生は進振り(2年次に専攻を決める制度)で経済学を選んでくれない。だから1、2年生が集まる駒場キャンパスに13人の教員が乗り込んで、オムニバス形式の授業で理系・文系を問わず学生にアプローチしています」(山口教授)

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