ナイトに叙された錬金術師
英国経済改善の功によりニュートンはナイトに叙せられるが、生涯最後の大仕事をしかけた。銀本位から金本位に移行するために、神による権威を与えられた国家が金の産生を完全にコントロールすること。すなわち錬金術である。科学の手で卑金属の混合物を金に変えることができれば、それが神と国家の権威を万民に示す最強の証明に他ならない。しかし、当たり前ながらこの試みは成功しなかった。
鉄や炭素などと異なり、金のような重い元素は恒星の内部で作ることはできない。地球の誕生からほどない39億年昔に、中性子星どうしの衝突により生じたガンマ線バーストが大量の重元素を生じ、これら金銀プラチナを含む隕石として地表に降り注いだのが貴金属やレアメタルの起源らしい。
ニュートンの功績としてもう一つ忘れてならないのは、対物レンズの代わりに放物面を描く凹面鏡を用いた望遠鏡(いわゆるニュートン式反射望遠鏡)の発明である。ただ、ストレスの多い造幣局長官を務めながら自作の反射望遠鏡で天体観測をしていたニュートンもまさか宇宙空間で金が作られていたとは想像もできなかったであろう。
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