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■ラストシーンはまるで詩のよう

 色彩豊かな作品を多く手がけてきたが、本作は「ノワール」の言葉どおり、パーティーシーンでさえ、モノトーンの色彩世界で魅了する。監督は「本作のような白黒の寒々しいトーンの視覚効果が好き」だと話すが、その理由は、「極寒の中で熱くたぎる信念が際立つ」からだ。

「そのため、鮮やかな色は抑え、主に白と黒を用いました。雪が絶えず降っている……。そんな光景はおのずと詩的な趣を作り出します。

 雪、雨、霧……それがどんな天気であっても、特別な天気の中でストーリーを展開すると、画面の中にある種の詩ができあがる。それは映画監督の多くが知っていることです。人とその運命が情景とうまく溶け合い、言葉にし難い味わいが生まれます」

 誰もが楽しめるスパイ映画を目指した監督の願いどおり、本作は中国で監督史上最高の興行成績を上げた。だが意外にも「興行収入にどんな期待もしていない」と言う。

「興行収入がいいことを願ってはいますが、そのためだけに映画を撮ることもできません。私が常に望むことは、芸術性の高い映画を撮ること、誰もが楽しめる作品を作ることです。

 中国の古い詩の中に、『山回路転不見君、雪上空留馬行処』(山道は曲がりくねり、もう君の姿は見えない。雪の上に馬蹄の跡が残るだけ)という言葉があります。友を見送る旅をする情景と、雪に残る馬蹄の跡を詠んだもので、深い思慕と悲しみを寄せた言葉です。『崖上のスパイ』のラストシーンは、まるでこの詩のようです。雪が吹きすさぶ情景は、刺すような寒さと残酷さを表し、また人の運命を語っています。

 映画監督なら誰もが自分の映画をより多くの人に見てほしいと願うものですが、それができるかどうかは運次第。スパイ映画は大ヒットする作品に仕上げることもできれば、作家性の強いマイナーな作品にすることもできます。要は自分がどう撮りたいかなのです」

(構成/ライター・坂口さゆり)

週刊朝日  2023年2月17日号

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