関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼動へ向けた動きが急だ。国内54基の原発のうち唯一稼動している北海道・柏原発3号機も5月5日には停止し、「原発ゼロ」社会は目前だが、野田政権はその前になりふり構わず、再稼動に道筋をつけるつもりだ。なし崩し再稼動をこのまま許していいのか。
 原子力発電所に絶対の安全はない。それが、昨年の福島原発の事故で背負わされた大きな代償と引き換えに学んだ教訓だったはずだ。「安全対策はこれからします。だから原発は安全です」という理屈は、「日本はこれから財政再建します。だから日本の財政は健全です」と言っているのと同じだ。こんな欺瞞がまかり通るなら、確かに何だってできてしまうだろう。
 もともと「再稼働ありき」の野田政権にとって、安全対策は二の次でしかない。それは、枝野経産相のこんな発言からも明らかだ。
「原発を稼働しなくても、電力の需給に余裕があるとか、若干の節電のご協力をお願いして十分乗り切れるなら、(原発)開ける必要はない」(6日の閣議後の会見)
 これは裏を返せば、原発を再稼働させるかの決め手は電力が足りるかどうかであって、「安全」でないと言っているに等しい。
「危険」を「安全」に、「不安」を「安心」に言い換える。どんなにいい加減で、つじつまの合わないことでも、自信満々で話す。わけのわからない理屈を使って相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する......。
 そんな「ごまかし言語」を駆使した言葉の使い方を、東京大学の安冨歩教授は「東大話法」と名づけた(著書『原発危機と「東大話法」』〈明石書店〉)。
 安冨教授によれば、この話法は東大に限らず日本中に蔓延しているが、原発事故後、多くの東大関係者らがそろいもそろって、こうした欺瞞的な言葉の使い方をしていると気づいた。
 事故直後、「長期的には悪影響がありうる」と言わずに、「ただちに影響はない」と言い換えた枝野経産相もまた、典型的な「東大話法」の使い手だ。
 東大話法の特徴は、欺瞞的な言い換えで国民をだましているのはもちろん、自分自身をもだましていることだという。
「枝野さんの発言がぶれているように見えるのは、世論がこれでは納得しないだろうとわかっているので、彼なりにバランスをとろうとしているのでしょうが、東大話法を駆使していると、自分がしていることが正しいのか、間違っているのかさえ、わからなくなってくる。だんだん、『みんなが正しいと言うんだから正しいのだろう』という、極めて無責任な判断停止が起きてくるのです」(安冨教授)

※週刊朝日 2012年4月20日号