「日々、変化していると言っていいほど変異をくり返しています。例えば、私たちが4月下旬に確認したデータでも4600種類のウイルスの遺伝子配列が報告されていました。いまは、万単位の情報になっています。ただ、ウイルスが何種類あるかは分類の仕方でいろいろ異なる。もともとは3種類くらいに大きく分けられていました。そうした主だったものだけを見ても、アジアで広がったウイルスとヨーロッパで広がったウイルスは、遺伝子配列がかなり違います。ウイルスの遺伝子変異と強毒化の因果関係はわかっていませんが、少なくともヨーロッパとアジアの致死率の差を考えると、ウイルスの毒性が関係している可能性も想定しておく必要があります。顕著なのは米国で、東海岸はヨーロッパ型のウイルスが多いのですが、西海岸では比較的少なく、致死率にも差があります」

 東海岸のニューヨーク州は感染者数約37万4672人のうち死者数は約2万9553人(致死率は7・9%)、ニュージャージー州は約15万7818人のうち約1万1341人(同7・2%)。一方、西海岸のカリフォルニア州は感染者数約10万1555人のうち死者数は約3955人(同3・9%)となっている。同じ米国内でも、東海岸と西海岸とでは致死率が2倍ほどの差になる。

 日本もアジア全体から見ると致死率はやや高いという。その理由は、3月末にヨーロッパから日本への入国が制限される前に海外在住の日本人の多くが帰国したことで、ヨーロッパ型のウイルスが部分的に入ったことも考えられる。

「ただ、日本の医療レベルを考えると、5%という致死率は高すぎる。やはり軽症者にはPCR検査をしなかったため、公表されている感染者数が実態とかけ離れているのではないか」

 現在、世界で感染者は600万人に及んでいるが、感染者が増えれば増えるほどウイルスの遺伝子変異は多くなる。その中でもっと強毒性のウイルスが出現する可能性もあるという。同時に、ウイルスに耐性ができて治療薬が効かなくなることも起こり得るという。

「抗がん剤の問題と一緒で、ある薬で治療するとその薬に弱いがん細胞は消えますが、抵抗性を持ったがん細胞は生き残って再発や増悪を起こします。ウイルスも体の中で様々なかたちに変化し、薬に対して強いウイルスが生き残っていくのです」

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難しいワクチン開発。ウイルスの変異で効かなくなることも