最期に会えない、手も握れない──。新型コロナウイルスで大切な人を亡くすと、別れの時間を持てずに苦しむ恐れがある。グリーフケアが求められている。AERA 2020年6月8日号から。
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見舞いに行ったとき、冗談を言って周囲を和ませていた祖父は、その2週間後、遺骨になっていた。新型コロナウイルスの発症からたった5日後だった。
福岡県の30代男性の祖父(享年89)は4月上旬、心不全で短期入院中に、新型コロナウイルスに感染した。感染リスクがあるため、面会できない。心配したが、闊達(かったつ)な祖父のこと。「きっと大丈夫」と思っていた。
発症から3日後、祖父と電話で話すと「もうだめかもしれない」とこぼした。これまで弱音を吐くのを聞いたことがない。初めて、死の可能性が頭をよぎった。「最期とは思いたくない」。男性は祈るような気持ちで、普段通りの会話をした。その後、容体が急変し、亡くなった。
遺体に面会することもできず、火葬も立ち会いは5人までという制限があって行けなかった。男性の中で祖父の記憶は、元気な姿のままで止まった。
「まだ生きているんじゃないか」。布団に入れば、祖父の姿が頭を巡る。高齢になっても自転車で地域を回り、住民を気に掛ける。盆や正月に帰省すると、祖父はいつも地域行事の運営に駆け回っていた。男性にとって最も尊敬する人で、誇りだった。
それなのに看取ることも、別れを告げることもできなかった。
「つらくて本当に何もしたくない。眠れない日が続きました」
身内を失うことは、誰にとってもつらいことだ。だが、新型コロナウイルスに感染して亡くなった場合、遺族をさらに苦しめるのは、死を悼む時間を持ち、葬儀などを通して大切な人との別れを受け入れていく、というプロセスを踏めないことだ。
志村けんさんが亡くなった時、感染の懸念から、遺族は遺体との対面すら許されなかった。岡江久美子さんの遺族は、死後、病院でガラス越しに最後のお別れができたが、火葬には同行できなかったという。別れの時間すら持つことができない厳しい現実は、社会に衝撃を与えた。