新型コロナウイルスに感染し、国内で死亡した人は5月28日現在、883人に上る。遺体の取り扱いについては、空気を通さない袋に収めることが望ましいと厚生労働省のQ&Aに書かれており、遺族が搬送し、希望する場合は手袋をして触れることも差し支えないとされている。だが、多くの場合、現状では感染リスクを抑えるため、棺のふたをテープで巻いて密閉する。棺の顔部分にある窓も開けられなくなる。遺族は故人の顔すら見られないまま火葬される──。

 感染リスクと遺族の心情との間で模索を続ける葬儀社もある。

 東京都の葬儀関連会社ライフエンディングテクノロジーズは、遺族が防護服を着て、遺体安置所で故人と面会ができるプランを開始した。ただし、遺体に触れることは推奨していない。

 同社の冨安達也取締役(34)は「せめて顔を見ることができてよかったというご遺族もいますが、顔や手に触れたかったと残念がるご遺族もいます」と話す。

 日本グリーフケア協会会長で、東北福祉大学の宮林幸江教授は、新型コロナで家族を失うことをこう分析する。

「故人とお別れの時間を持てないということは、大きな心残りでしょう。つらい最期を迎えさせてしまった、何か対策できなかったか、と自責の念に駆られてしまいます」

 大切な人を失うと、悲しみや喪失感に打ちひしがれ、気持ちを整理することが難しくなることもある。眠れず、涙が止まらない人もいる。こうした心や体に起こる反応を「グリーフ」という。英語で悲嘆という意味だ。

 グリーフを和らげ、付き合っていく過程を支援する考え方が、「グリーフケア」だ。墓参りなどで故人とのつながりを意識したり、故人に「してあげたかったこと」などの思いを吐き出したりして、悲嘆に耐えながら亡くなった現実を受け入れ、気力を取り戻していく。その過程に寄り添い、心身をケアするという。

 だが、新型コロナの場合、それが難しい。一般的な病死や災害死とは、異なる点がある。

「周囲の目を恐れて新型コロナウイルスに感染したと言えずに、抱え込んでしまいがちです。そして、新型コロナで大切な人を亡くした遺族がつながる方法はまだありません。これでは、吐き出すことができないまま悲しみや喪失感はより深くなり、和らぐには時間がかかります」(宮林教授)

(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年6月8日号より抜粋