指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第22回は「自分たちで考えて前へ進もう」。
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久しぶりにホームの東洋大プールで練習を再開しました。選手の動きがぜんぜん違います。表情もすごく明るい。感染リスクを避けるために50メートルプールで換気に気をつけながら、1コースに1人という少人数での再スタートです。
5月25日に緊急事態宣言が全国で解除された後も、東洋大では安全・安心を考慮し、体制が整うまでキャンパスの入構禁止が続いています。大学の英断で五輪に向けて水泳と陸上の競技団体の強化指定選手に限って特例が認められました。
欧州で新型コロナウイルスの感染が拡大した3月にスペインの高地合宿を切り上げて帰国して以来、この2カ月間は目標とする東京五輪の1年延期が決まり、緊急事態宣言で外出自粛が求められるなど、選手の体力とモチベーションを維持するのに苦労しました。
私が指導する五輪を目指す選手たちは、プールを貸してくれるスイミングクラブなどを転々として練習を続けてきました。「五輪があったらできなかったことをやろう」と、泳ぎや陸上トレーニングのフォームを一から見直しました。
多くの方の協力でいくつかのプールを使わせていただき、早大水泳部時代を思い出しました。部員は東京・東伏見の稲泳寮で共同生活をしながら1日2回練習をこなします。オフシーズンの朝練習はOBがいるスイミングクラブにお願いをしてプールを借りました。年2回の合宿も高校などのプールを借りていました。
大学1年の夏合宿は静岡県磐田市の高校のプールを借りましたが、宿舎はお寺でした。私がマネジャーになった3年のときから夏合宿は同県富士市の高校を使わせてもらいました。宿舎として私が探した近くの旅館とは40年近くたった今も交流があります。