主将とマネジャーを中心に学生主体で水泳部を運営していました。監督と一緒に菓子折りを持ってOBを訪ね、プールを貸していただく交渉をする。自分たちで考えて練習場所を確保した経験は、コーチになってからも生きています。

 今回の練習再開にあたって、東洋大の安斎隆理事長のお話を聞く機会を得ました。セブン銀行の初代社長で昭和16(1941)年生まれの安斎さんは子どものころ、学徒出陣で戦争に行って学業を中断せざるをえなかった世代の先生方に教わっていたそうです。安斎さんは「学校に行けなかったからといって学ばなかったわけではない。そういう経験をしたからこそ、よく考えた世代じゃないかと思う」と言います。その世代が引っ張っていた時代の日本は低迷していたかといえば、そうではない。「今の学生に必要なのはよく考えること、工夫をすることだ」と話してくれました。

 世界中の人々の活動が制限され、人との接触を減らすことが思いやりというのは、だれも経験したことがない事態です。当たり前が当たり前でなくなった今、自分たちで考えて前へ進んでいくしかありません。

 ホームで練習ができなかった期間は、じっくりと心と体を鍛え直す時間の余裕をもらった、と前向きにとらえたい。そう思えれば次に進む力になります。感染予防策を万全にした上で、これから全国のプールで練習を再開する選手が増えていきます。泳げなかった時間がきっと泳ぐ楽しさを気づかせてくれるはずです。(構成/本誌・堀井正明)

週刊朝日  2020年6月12日号

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