転倒や転落などで亡くなった人は18年に9645人で、交通事故死の4595人の2倍以上となっている。厚生労働省の人口動態調査で過去10年ほどの推移をたどると、交通事故死は減少傾向にあるものの、転倒・転落などで亡くなる人は増加傾向を見せている。09年にはいずれも7300人超でほぼ同数だったが、転倒・転落などで亡くなる人が上回っていった。あくまで数値は転倒・転落などで亡くなった人だけの集計であり、その背後には転んで大けがをするなど、生活が一変した人も少なくないとみられる。

 18年版高齢社会白書は、要介護者などが介護を必要とするに至った原因を分析している。割合として多いのが、認知症18.7%、脳血管疾患(脳卒中)15.1%、高齢による衰弱13.8%で、骨折・転倒もこれらに次いで12.5%を占める。骨折・転倒の男女比では、男性7.1%に対して女性15.2%と、女性が圧倒的に多い。

 さらに詳しい分析が続く。医療機関から国民生活センターに提供された事故情報によると、65歳以上は「居室」で事故にあう人が45.0%、「階段」18.7%、「台所・食堂」17.0%などとなっている。

 転倒につながる「ふらつき」の原因には筋力の低下も考えられるが、体のバランスをとる仕組みに問題があることもわかってきた。

 東海大学医学部耳鼻咽喉科の五島史行准教授によると、体が傾くと「信号」が脳に送られ、そこから体のバランスをとる動きをするように信号が出る。体のバランスには、視覚情報を捉える目、耳にある平衡感覚器、足裏感覚の三つの感覚器が関係し、小脳がこれらの感覚器からの信号の「入力」を統合しているのだという。

「『ふらつく』といったエラー信号を小脳が補正させます。うまく使えるようにするためには小脳を鍛えることが大切です」

 年をとると、目などから入ってくる情報の入力が弱くなり、筋肉を収縮させる「出力」の信号伝達の仕組みがうまく働かなくなる。五島医師は「トレーニングをして信号を増幅し、小脳でゲイン(入力)をあげる必要があります」と話す。

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