抜群の“ワードセンス”でプロレス中継をより魅力的なものにした古舘伊知郎氏 (c)朝日新聞社
抜群の“ワードセンス”でプロレス中継をより魅力的なものにした古舘伊知郎氏 (c)朝日新聞社
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 プロレス中継の楽しみの一つとして、個性豊かな実況がある。実況によって名勝負はさらに盛り上がり、語られた名言は時を超えて残る。

 実況アナウンサーの中にはレスラーに匹敵する存在感を発揮した人も多い。プロレスでの活躍から人気がはねて、多種多様なジャンルから引く手あまたになっている。

 1番手は古舘伊知郎(以下、敬称略)だ。

「巨大なる人間山脈。現代のガリバー旅行記」
「掟破りの逆サソリ」
「戦う金太郎飴軍団」
「闘いのネバーエンディングストーリー」
「肉体がレクイエム、攻撃がゴスペル、この2人の闘い模様はまさにバラードだ」

 独特なレスラーのキャッチフレーズや、名実況を数え始めたらキリがない。実況という『裏方』的役割にスポットライトが当たったのは、この人の功績が大きい。

 テレビ朝日局アナ、フリーとして新日本『ワールドプロレスリング』の実況を担当。当時解説として同席したのは新日本・山本小鉄。そして豊富な取材歴を誇る東京スポーツ・桜井康雄。古舘は豊富な語彙力とウイットに富んだ表現を駆使し、重鎮たちと言葉のプロレスを戦っているようにも見えた。

 その後も様々なバラエティ番組や『報道ステーション』、『NHK紅白歌合戦』など多くの司会を務めている。どのような場所でもプロレス時代の語り口を連想してしまい、ファンとしてはうれしくなってしまう。

 古舘の純粋なDNAを受け継いでいると言えるのは、辻よしなり。

 古舘がプロレス実況降板後、テレ朝局アナ時に抜擢された。当初は「古舘の二番煎じ」と揶揄もされたが、感情を素直に出すスタイルが浸透。同時に古舘に負けないほどの名言も残した。

「橋本、立ってくれ」

 橋本真也が引退をかけ小川直也と対戦した際の泣きながらの実況は、ファンの胸に刺さった。

 またnWoジャパンが大人気だった時代には総帥・蝶野正洋に放送席を占拠された。その上、ワイシャツにスプレーで『nWo』と書かれ軍団加入を果たしたことも記憶に残る。

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テレ朝の実況アナに負けない魅力があったのは?