平昌五輪で南北合同チームを応援する金与正氏(右から2人目)。左端は韓国の文在寅大統領 (c)朝日新聞社
平昌五輪で南北合同チームを応援する金与正氏(右から2人目)。左端は韓国の文在寅大統領 (c)朝日新聞社
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AERA 2020年7月6日号より
AERA 2020年7月6日号より

 北朝鮮が開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破したことにより「ほほ笑み外交」は一変した。緊張が走る南北関係で、北朝鮮側の担当を務めるのが金正恩氏の実妹、金与正氏だ。脱北者を「家の中の汚物」「くず」と過激な言葉でこきおろす与正氏だが、一体どういう人物で、言葉の真意はどこにあるのか。AERA 2020年7月6日号では、与正氏が存在感を強める背景を取材した。

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 なぜ今、金与正(キムヨジョン)氏が前面で南北関係を担当するのか。それはひたすら、兄である金正恩(キムジョンウン)氏を守るための行動ということに尽きるだろう。守る理由は三つある。第1に、金正恩氏の権威を守る必要がある。正恩氏の権威は最近、傷つきっぱなしだからだ。19年2月にハノイでの米朝首脳会談で、寧辺核施設の廃棄の代わりに米国から制裁の一部解除を引き出すことに失敗。正恩氏はその後、「19年末まで米国の新しい政策を待つ」としたが、見事に無視された。同年末に「世界は新たな戦略兵器を目撃する」と言ってみたが、大陸間弾道弾(ICBM)発射などには踏み切れていない。

 新型コロナウイルス問題で、北朝鮮経済も厳しい。1月末から国境を封鎖したため、中国に頼っていた小麦粉や食用油などが不足し、外貨稼ぎも滞っている。正恩氏は6月の党政治局会議で、平壌市民の生活保障に言及せざるを得なかった。

 北朝鮮は11月の米大統領選後、トランプ米大統領と再交渉する戦略とみられてきたが、トランプ氏の再選が厳しくなってきた。米朝の仲介役を自任してきた文在寅(ムンジェイン)政権も、来年には22年5月の任期末に向けてレイムダックに陥るだろう。北朝鮮が待てる時間はもう無いとも言える。

 第2に、金正恩氏のこれまでの政治的主張を守る必要がある。正恩氏は19年10月、金剛山観光地区を訪れ、「国力が弱い時に他人に依存しようとした先任者たちの依存政策が非常に間違っていた」と述べ、経済支援をテコに南北対話を進める韓国の太陽政策に応じた金正日(キムジョンイル)総書記の戦略を批判した。金与正氏の激しい口調は、韓国におもねらない態度を望む正恩氏の意向を受けたものだろう。また、金正恩氏は常々、「普通の国」を強調。金与正氏は6月13日の談話のなかで、韓国に対する次の行動について「軍総参謀部に委任しようと思う」と説明。党を中心に組織を重視した政治運営を目指す正恩氏の意向に沿った。

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