少なくとも「悪意」があって横持ちをしているわけではなさそうだ。しかし、もしその傘で人にけがをさせてしまった場合、罪には問われないのだろうか。
傘の横持ちについてネットニュースで執筆経験を持つ、クレヨン法律事務所の齊藤宏和弁護士はこう語る。
「もし相手に重症を負わせてしまった場合は、賠償金が数千万円に上る可能性があります。決して軽く考えない方がいいと思います」
前述のように、傘を横持ちしている人はあまり危険を意識せずに、何げなくやっている人がほとんどだろう。その場合、もし相手にけがをさせてしまっても、故意ではないので「暴行罪」や「傷害罪」は適用されない。刑法上は「過失傷害罪」となり「30万円以下の罰金」で済む可能性が高い。
「不注意で軽傷を負わせたくらいならば、罰金にすらならないでしょう。もし送検されても起訴猶予となり、不起訴処分となる可能性が高い。ほとんどの場合は、被害者側と示談となって終了でしょう」
だが、民事となると話は違ってくる。齊藤弁護士によると、民法709条では「故意」または「過失」によって、相手に負わせた損害については賠償する責任があると定められているという。
「過失の認定には、結果の『予見可能性』と『回避義務違反』があったかが重要になります。傘を横持ちしていれば、人に当たるかもしれないと考えるのが普通で、それを回避するためにどう行動するかを考えるべきです。その回避行動をとらなかった結果が『過失』とみなされます。その場合、傘を横持ちしていた人には民事上の賠償責任が生じます」
賠償額はけがの程度で大きく異なり、主に医療費、休業損害、逸失利益、慰謝料の4つが勘案されるという。
「逸失利益をどう判断するかで賠償額も変わってきます。重症の場合は、交通事故の後遺障害の等級が参照される場合が多い。等級ごとにどれだけ労働能力が喪失するかというパーセンテージが明示されているので、そこから損失額を算出します。また、逸失利益は労働を前提としているので、無職の80代の高齢者と10代の子どもを比べれば、余命が長い子どもの方が長く働くことになるので、逸失利益は大きくなります。もし小さな子どもを傘で失明させたとなれば、賠償額は5000万円を超えることも考えられます」