――世間では、政府がオリンピックを開催したいがために検査数を抑制して、感染者数を少なく見せているという説までささやかれました。

 そのようなことはまったくありません。現場にもそんな意識はないですし、オリンピックを理由に検査を絞ることなどできません。面白おかしく言われているのかもしれませんが、私はそういう議論にはついていけません。的外れです。

――政治と専門家との「距離感」もたびたび問題になりました。

 学校の一斉休校の問題では、安倍首相自身が決断をされました。ただ、専門家の意見を聞いていないじゃないかという話もあって、その後はむしろ専門家の意見に頼る方向に振れたのではとも感じました。我々も科学者として一定の距離は保ちながら、しかし、我々の助言を政策に使ってもらわないと意味がありません。けんかするつもりもないですし、一方で意見だけ出して終わりというのも違います。

――脇田所長は国立の研究所のトップであり、会議の座長でもありました。立ち位置に困る場面はありませんでしたか。

 政府にはいろいろな審議会があります。通常は事務局が事前に準備を進めて委員の専門家が意見を言うのですが、今回はまったくやり方が違いました。「これを審議してください」ということだけではなく、専門家の方からも次々と審議するべき議題を提案していったわけです。だからこそ前のめりになってしまったという側面はあります。批判もありましたが、立場がどうかなどと考えている余裕はありませんでした。

――議事録をとっていないことも問題視されました。

 最初の会議のときに、「自由で率直な議論をしていただくためにこの会議では議事録ではなく無記名の議事概要を作ります」ということが事務局から提案されました。結果として様々なご意見があって、議事概要は名前つきで作ることになりましたが、会議の速記録は残っています。発言はほとんど記録されてペーパーとして残っていますから、いずれ公開されることになります。

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