インスリン分泌パターンと血糖値の動きのイメージ
インスリン分泌パターンと血糖値の動きのイメージ
『新「名医」の最新治療2020』より
『新「名医」の最新治療2020』より

 糖尿病の治療に広く使われてきたのがインスリン注射だ。一日に何度も自分で注射する煩わしさや注射針の痛みなど、かつてはハードルの高かったインスリン療法だが、近年は新薬の登場で患者の負担は軽減されているという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、最新のインスリン療法について専門医に取材した。

【図】糖尿病にかかりやすい年代は?主な症状は?

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 インスリン注射は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが、免疫異常により分泌されなくなってしまった1型糖尿病の治療に使われてきたのに加えて、生活習慣病である2型糖尿病にも広く使われてきた。その背景はこうだ。

 血糖コントロールがうまくいかない期間が続くと、膵臓は血糖値を下げるためにインスリンを少しでも多く出そうとする。

 この状態が長く続くと膵臓は疲弊し、インスリンの分泌量が低下して血糖値が下がらなくなる。高血糖がさらに高血糖を生み出す悪循環に陥り、糖尿病を悪化させることになる。

 そして、網膜症や腎症、さらには心筋梗塞や脳卒中といった合併症を進行させてしまうことになる。東邦大学医療センター大森病院糖尿病・代謝・内分泌センター教授の弘世貴久医師は言う。

「膵臓の機能を少しでも守り、こうした事態を防ぐためにも、インスリン療法は有効です」

 順天堂大学順天堂医院糖尿病・内分泌内科科長(教授)の綿田裕孝医師も、膵臓の機能低下を懸念している。

「経口薬による治療が長引くと、糖尿病を発症してからの年数も経っていることになり、その分、インスリンの分泌能力は確実に低下します。そこに、インスリンを分泌させる薬を使ってもなかなか効かないのです」

 これに対して、インスリン療法はインスリンの不足分を確実に補うことができ、健康な人と同じようなインスリン分泌パターンを再現することができる。すると、血糖コントロールが改善され、膵臓は無理にインスリンの分泌量を増やすこともなくなり負担が軽減される。

 この“休養”によって膵臓のインスリン分泌能力が回復する場合があり、2型糖尿病ならインスリン注射が不要になるケースもある。では、どのような場合にインスリン療法を検討するのか。

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