東京五輪・パラリンピックの延期は、東京都や国が進めてきた臨海部の再開発事業にも影を落とす。これまでつぎ込まれた血税は“水泡”に帰すのか。
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「入居時期が遅れるのは残念です。年内にも時期が決まるというので、そのうえでどうするかを考えたい」
東京五輪の選手村を改修して分譲される東京・晴海のマンション「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。ここに入居を予定する都内の男性会社員は不安を隠さない。当初は2023年3月から住めるはずだったが、五輪延期で1年ほど遅れる見通しだ。
男性によれば、契約した不動産会社からは、解約もでき、解約した場合には手付金を返してもらえると伝えられたという。とはいえ、「新型コロナウイルスで将来どうなるか見通しにくい。妻の仕事や子どもの通学など家族の生活にも大きく関わりますので、すぐには判断できません」。
晴海フラッグは総戸数5632戸のうち、賃貸が1487戸、分譲が4145戸。分譲マンションは19年7月に販売が始まり、これまでに約900戸が売れた。五輪選手が泊まる建物そのものはすでに完成し、スポーツの祭典の開催を待つばかりだ。
住宅ジャーナリストの榊淳司さんは、五輪の開催時期は購入者の動向を左右すると指摘する。
「すでに契約した約900戸からは解約する人がほとんど出ていないと聞いています。しかし、五輪が来年7月に開催される保証はありません。中止になれば、契約のキャンセルが相次ぐでしょうし、開催がさらに先延ばしされれば入居時期もそれだけ遅れます。一番よくないのは、政府がIOC(国際オリンピック委員会)との交渉を粘って開催時期が決まらないこと。新型コロナの影響で景気は悪くなっていきますから、残り分を売るのは時間が経つほど難しくなるでしょう」
総戸数5632戸のうち、1455戸は大会後にできる50階建ての二つの高層棟が占める。ほかの棟と一緒に建てられなかったのは、IOCの規定で宿舎の高さが制限されていたからだ。五輪の開催時期が定まらないと、工期や入居時期も決まらない。