ロッテ時代の伊良部秀輝 (c)朝日新聞社
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 7月27日は伊良部秀輝の命日(2011年)にあたる。

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 あれから10年近い月日が経つが、いまだ球史に残る剛腕投手の記憶は色あせない。しかしながら理論派投手という面は、あまり伝わってこない。

 投球技術をとことん探究する投手だったことは、関わった誰もの共通認識だ。

「どんなに野球が進歩しても、必ず守らなければならない基本がある」

 投手に必要なものを身につけるために、日々試行錯誤していると伊良部は最初に力説してくれた。

「右投げ左投げがあり、その中でもオーバースローからアンダースローまで多種多様に分かれている。そばから見れば同じような投球フォームでも、本人たちの感覚はまったく異なる。最善の投球フォームを1つに限定することはできない。だがすべてに共通する基本は存在し、それを守ることが打者を抑える確率をあげる」

「口で言うのは簡単だが難しい。理解して練習して身につける。大事なポイントはいくつもあるから、それらができるようになりたい。基本を身につけないと、最大限の力を安定して出せない。故障につながり投手生活を左右することにもなる」

 剛腕投手の中には天性のパワーに任せて強い球を放る人もいる。しかし伊良部という投手は、基本を大事にしていた。

「投球フォームや球種など、常に新しいものを探していた印象。ブルペンや外野での遠投時など、いつも異なることをやっていた」

 ロッテ時代の89~95年チームメイトだった前田幸長。公私ともに可愛がってもらった先輩について、1番覚えていることだ。

「リリースでの球の出所を打者から見えにくくすることをいつも考えていた。僕の球速はラブさん(前田は伊良部をこう呼ぶ)より10キロ以上遅い。だけど打者を抑えることができた。『なんでお前の球で打者が抑えられるんや』と尋ねられたことがある。僕のフォームは球の出所が見にくいと、言われたことが何度かあった。理由はわからないのでラブさんには説明できなかったんですけどね」

 米国では球の出所がわかりにくい投手のことを『スモーキー』と呼ぶ。煙の中からいきなり球が出てくるイメージからだ。伊良部は『スモーキー』な投球フォームを常に探し求めていた。投球フォームを駆使して打者に対して有利に立つためだ。

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負担のあるフォームで戦った伊良部の苦悩…