公私とも行動することが多かった前田は、真剣に野球のことを語り合える尊敬すべき人間だと言う。

「ラブさんは野球、とくに技術に関しては自分で考えながら作り上げていくタイプ。そこを尊重せず、頭ごなしに強制するから反発する。ラブさんと関わった人なら、みんな知っていることなんですけどね。『扱い方を間違えている』と思っていた」

「育成コーチのような仕事をやってみたい。素材は良いのに実力を発揮できない投手を育てたい。外野席の方にデッキチェアとか並べて試合中に話しながら、野球論を語り合う。きっかけをつかめるようにしてあげたい」

 現役引退後のことについて、優しそうな笑顔で話していたのを思い出す。自ら波乱万丈の野球人生を送ってきた伊良部。1人でも多くの素材が埋もれないことを祈っていたのだろうか。

「例えば、苦しんでいる阪神・藤浪晋太郎をラブさんが指導したらどうなったのかな。実力ある投手だが、いろいろあり強烈な逆風をうけてきた。自分と似たような境遇を知っている人がそばにいたら、大きく変貌を遂げるのではないか」

 最後に前田がポツリと語ってくれた。

 伊良部さんがいたら、と考えてしまう。時間が経つのは早い。

(文中敬称略)

※記事内での伊良部氏コメントは「伊良部秀輝、吉井理人『最新最強のピッチング・メカニクス』」(発行:株式会社永岡書店、制作・構成:イニングス、2010年)で取材過程でのもの。

(文・山岡則夫)

●プロフィール
山岡則夫/1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌『Ballpark Time!』を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、編集・製作するほか、多くの雑誌、書籍、ホームページ等に寄稿している。Ballpark Time!公式ページ、facebook(Ballpark Time)に取材日記を不定期更新中。現在の肩書きはスポーツスペクテイター。

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