水泳は水泳だけをやっていれば速くなる、というわけではありません。スランプを乗り越えていくための豊かな感受性と多くの人の支援を得られる人間性が必要です。
知識を得るために勉強する習慣や他人のアドバイスを素直に受ける姿勢を、ジュニアのころからしっかり身につけておきたい。そうでないと競技力が上がるにつれて、「水泳に関して自分はなんでも知っている」と独りよがりになって、周りから見ると危うい状態になる可能性があります。
競泳選手は五輪の金メダルを目指します。しかしスポーツの目的はそれだけではなく、豊かな人生を手に入れることです。
一度だけ花を咲かせる水栽培ではだめだ。しっかり根を張って養分を吸い取って何度も花を咲かせる球根を育てたい。そうすれば活躍し続けられるし、水泳をやめたあとのセカンドキャリアにもつながっていく。駆け出しのコーチのころ、そう考えていました。それは今も変わっていません。(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
※週刊朝日 ※週刊朝日2020年8月14‐21日号