回転寿司で見かけることはあまりありませんが、筆者が好きな寿司ネタのひとつに、「子持ち昆布」があります。昆布の表裏にびっしりと魚の卵がくっついたもので、プチプチともコリコリとも違う、キュルキュルというのが近いような、独特な食感とほのかに感じる昆布の旨みに、初めて食べた時からとりこになってしまいました。
当時は人工的に作られたものと思っていたんですが、後日、ニシンが昆布に卵を産みつけたものと知りました。
ニシンの卵ですので、それだけではおせち料理の定番の「かずのこ」ですが、「子持ち昆布」には「かずのこ」を超えた魅力が詰まっています。
実はこの「かずのこ」が近い将来、我々庶民の口には入らなくなってしまうかもしれない状況になっています。
「かずのこ」の産みの親であるニシンは、明治から昭和の初期にかけて、北海道の日本海側で非常にたくさん取れ、1回の漁で、今の価値にして億円単位の漁獲高を誇った船もあったそうです。今でも小樽あたりには、ニシン漁で大儲けした網元が建てた、絢爛豪華な「ニシン御殿」が残っており、観光名所にもなっています。
約100年前には御殿が建つほど取れたニシンですが、かつての乱獲に加えて近年の温暖化の影響もあり、現在では当時の1%ほどしか取れなくなってしまいました。その結果「かずのこ」の供給量も大きく減っています。
近年日本国内で流通しているものの多くは、ロシアやカナダ産のものですが、ここへ来てロシアやカナダでもニシンがあまり取れなくなっているんです。その結果、「かずのこ」の値段が高騰しています。7月の豊洲市場のキロ当たり価格を見てみると、過去5年間の平均に比べて、40%もの高値になっているようです。
余談になりますが、なぜニシンの卵を「かずのこ」と呼ぶんでしょうか? 漢字で書くと「数の子」なので、数がいっぱいあるから、と思いますよね。違うんです。
実は、北海道や東北では、かつてニシンのことを「かど(イワシ)」と呼んでいたそうです。そして「かど(イワシ)の子」=「かどのこ」がなまって「かずのこ」になったという説が有力です。