エッセイスト 小島慶子
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緊急事態宣言が明け、通常勤務に戻る人も。オフィスに感染防止の仕切りを設置する企業もある (c)朝日新聞社
緊急事態宣言が明け、通常勤務に戻る人も。オフィスに感染防止の仕切りを設置する企業もある (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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感染第2波のただ中”にある日本。先日話を聞いたある臨床心理士は「今は他人との違いが目立つようになって、気持ちが落ち込みやすい時期です」と指摘しました。

 2月から始まったコロナ危機。初めはみんながショックと恐怖を感じていましたが、やがて緊急事態宣言を経てコロナのある生活が「日常」になり、時間の経過と共に個々人の置かれた状況の違いが目立つようになってきました。

 リモートワークが定着した企業がある一方で、いつの間にかコロナ以前と同じような不要な会議や顔を見せるためだけの出社が復活した職場も多いでしょう。変わると思ったのに変わらなかったと失望している人もいるはずです。周囲の友人はすっかりリモートワークが当たり前になって、新しい日常に適応しているように見える。なのに自分は今日も感染リスクにおびえながら出社しなくてはならない。知人の勤め先はコロナ需要でむしろ好調なのに、自分は冬のボーナスが出ないかもしれない。独身の部下は気楽そうなのに、高齢の身内がいる自分は戦々恐々。世界の富裕層は資産を増やして優雅に巣ごもり、一方で日本でも若者が路上生活を余儀なくされている。次々と格差の現実が炙(あぶ)り出されて、先の見えない中、不安と不満が募るばかりです。

 人は不安になると、他人よりも優位に立って安心しようとするのだそうです。混乱期には差別の問題が大きくなりやすいのも、そうした理由からだと言います。誰もが他人との違いに敏感になっている今、気がかりなのは少数派に対する排除の動きや、職場などでのいじめの悪化です。

 企業は、コロナ下で働く人々の不安のマネジメントについて、働きかけを強める必要があるでしょう。メンタルケアはハラスメント被害者のためだけではなく、人を加害者にしないためにも重要な取り組みです。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年8月31日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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