とはいえ、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の症状は似ている点が多く、症状だけでは区別がつきません。中国武漢の同済病院からは、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時感染が報告されています。その報告によると、新型コロナウイルス陽性と診断された307人のうち、全体の57.3%(176人)がインフルエンザウイルスとの同時感染であり、新型コロナウイルス単独の陽性患者は42.7%(131人)に過ぎなかったのです。つまり、今年の冬は、新型コロナウイルスに感染している可能性を否定できない発熱の患者さんがたくさん出る可能性があるのです。
このように、同時流行が懸念される今年の冬に向けて、予防可能な疾患から人々や地域社会を守るためには、新型コロナウイルス流行下におけるインフルエンザワクチン接種が非常に重要になるとCDCは指摘しているのです。
インフルエンザワクチンが新型コロナウイルス感染を予防する可能性も示唆されています。米国のコーネル大学の医師らの報告によると、イタリアの高齢者を対象にインフルエンザワクチン接種率と新型コロナ感染時の死亡率を調べたところ、インフルエンザワクチン 接種率が40%の地域の死亡率は約15%だった一方で、接種率が70%もあった地域では死亡率が約6%まで低下していたことがわかったというのです。筆者らは、インフルエンザワクチンを接種したことにより免疫力全体が活性化し、インフルエンザのみならず、新型コロナウイルス に対する免疫力を高めた可能性があると考察しています。とは言え、この点についてはさらなる調査が必要と言えそうです。
残念ながら、新型コロナウイルスには確立した治療法はなく、ワクチンも開発途中です。
となれば、今年は、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に警戒し、万全の体制で備えるためにも、すでに行っている手洗いやマスクの着用に加え、インフルエンザウイルスに対する予防、つまりインフルエンザの予防接種が私たちにできる最大の備えと言えそうです。
■山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員