「防衛費を増強するより、日本のマンガやアニメをもっと世界に配信すればいいんです」
 岡田氏は、95年に招待されたアメリカのオタクコンベンションでの経験をもとに、こう続ける。
「そこで米軍人のアニメファンと話をする機会があったのですが、彼は『もし日本と戦争することになっても、僕は日本を攻撃できない。アメリカ人だけれど、同時にオタクなんだ。自分の"故郷"を爆撃することなんてできない』と言うんです。これは日本にとってすごく貴重な文化資源です。これをもっと広げればいい。世界平和への文化的戦略ですよ」
 実はこんな「オタク国防論」を体現したといえるプロジェクトが進行している。ネットの有志を中心に、「日本鬼子って萌えキャラ作って、中国人を萌え萌えにしてやろうぜ」と盛り上がっているのだ。
 一部の中国人が日本を批判する際に、「日本鬼子(リーベングイズ)」という蔑称を使っている。これを逆手にとって、日本のオタクが「日本鬼子(ひのもとおにこ)」という、着物に薙刀を持った女の子のキャラクターを作り、中国人を萌えさせてしまおうというのだ。現在、画像投稿サイト「ピクシブ」には、日本鬼子のイラストが1900点近くも投稿されている。
 日本鬼子だけでなく、同じく日本の蔑称である「小日本(シャオリーベン)」を「こにぽん」と読みかえた妹キャラも誕生。歌詞付きのイメージソングも作られ、動画サイトで記録的なアクセス数を稼いでいる。
「うまい、と思いましたね。発想そのものではありません。これが国益を守る最も安くて効果的な方法だからです」(岡田氏)
 11月初旬には台湾の新聞「自由時報」が「日本鬼子」を大きく取り上げた。
〈中国のネットユーザーは、日本はいつか「萌え」で世界を征服するだろう、とあぜんとしている〉
〈(中国の一部のオタクは)いっそ「西洋鬼子(中国で使われる欧米人の蔑称)」、「高麗棒子(韓国・朝鮮人の蔑称)」と「台巴子(台湾人の蔑称)」も一緒に作り出してくれ!と提案している。しかし、彼らは次に「中華支那子」が登場することを心配している〉
 中国のネットでの反応を見ると、
〈こっちは罵声を送っていたはずなのに、返ってきたのは萌えキャラ……もう無力感にさいなまれる〉
 といった敗北感を漂わせるコメントが見られるほか、
〈釣魚島(尖閣諸島の中国名)を取り戻したところで、われわれ庶民にどんな利益がある? 実際のところ、愛国心は往々にして利益集団に利用されることが多い。私はこのような絵を見ても全然反感を持たない上、逆に一部の日本人のユーモアに感心する〉
〈日本鬼子は、正義と道徳を愛する中国人の友達だ〉
 などと称賛する意見が多く見られた。もちろん、こういった動きをバカバカしいと批判する声も少なくないが、日本のオタク文化が、中国の若者に相当浸透していることは間違いない。
 岡田氏はこう語る。
「日本が海外から評価されるのは、色気とテクノロジーしかない。モネやゴッホに影響を与えた浮世絵の時代からずっとです。現代の日本で色気とテクノロジーが合体したのがアニメなんですよ」
「萌え」は世界を平和に導く?

週刊朝日

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