──村木氏が入れられたのは、大阪拘置所5舎2階の通称「カメラ房」と呼ばれる24時間カメラで監視される部屋だった。

 第一印象は、古いし汚いし、なかなかすごいところだなあ、と。1日目は持ってきた衣類は検査のために取り上げられて手元にありませんでしたので、支給された灰色のLサイズのトレーナーを着て寝ました。不安もあって眠れないかと思ったのですが、それまで、自宅にも職場にもマスコミの人が追いかけてくるような状態だったので、誰も追いかけてこない場所に来て、意外なことにその日はぐっすりと眠ってしまいました。

 逮捕されたんだ、という実感がわいたのは、翌朝、裁判官の勾留(こうりゅう)質問を受けるために、拘置所の車両に乗ったときでした。初めて、手錠をかけられ、腰縄をきゅっとしめられた。ああ、犯罪者のように扱われるんだな、この姿だけは家族に見せられないな、と思いましたね。そのうち、手錠をかけられた右手首が我慢できないくらい痛くなってしまい、女性刑務官に「右手が痛いんですが」と訴えると、すぐに黙ってかけ直してくれた。その対応に、少し安心感を覚えました。後で考えると、不自然な格好でかけられたから、痛かったんだと思います。お縄をちょうだいする姿勢で手を差し出すと痛くないんですよ。

──拘置所の生活はいかがでしたか?

 いちばんつらかったのは、暑さと寒さですね。食事は麦ごはんが結構おいしくて、気に入っていました。献立はすべてノートに書いていました。これ何ていう食べ物だろう、と思うようなメニューもありましたが、鶏の照り焼きは二重丸でした。

──そして取り調べが始まった。村木氏は逮捕された6月14日から、被疑者自身が取り調べ状況などを記す「被疑者ノート」をつけていた。逮捕翌日の6月15日の欄にはこう書かれている。

<拘留の説明 20日だが、土曜の起訴はないので7月3日まで。結果は村木の場合は起訴されると説明され、裁判のことは考えているかと聞かれた>

 最初から結論が決まっているなら、これからの20日間の調べは何なのだろう、と思いました。起訴されるまでの20日間は本当にプレッシャーでした。一日が終わると、拘置所の独居房に張ってあるカレンダーを穴が開くくらい見て、「今日も一日が終わった。あと○日だ」と自分を奮い立たせていました。その後、差し入れで比叡山延暦寺の僧侶、酒井雄哉さんの『一日一生』という本をいただいて、酒井さんが千日にも及ぶ修行を、「その日一日を一生と思って精いっぱい生きるのだ」と書いていらっしゃったのを読み、かなり励まされました。

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