そして、無表情ともほほえみともつかない表情をしながら、「昔、担当した事件で、非常に有力な証拠を握っていながら、取り調べのときには明かさず、裁判でその証拠をつきつけて、有罪にしたことがあるんですよ」と、脅しともとれるような武勇伝を披露してきました。差し向かいで話をしていても、いつも間に分厚いアクリル板があるような距離感を感じました。
あるとき、国井検事がとんでもない内容の調書を作り、「これにサインしますか」と迫ってきたことがありました。すぐに「しません」と拒否しましたが、あのときの調書をプリントさせておいたらと、後悔しています。検察側も今回、私が署名を拒否した調書を裁判で証拠として請求しました。私も、国井さんのむちゃくちゃな調書を検察側の強引な取り調べの証拠として請求できたのに、と思うと返す返すも残念です。
──11月24日に保釈されるまで、村木氏の勾留生活は5カ月以上にも及んだ。この間、自身の主張を貫くことができたのは、多くの人からの励ましがあったからだという。
私が真実を貫けたのは、絶望せずにすんだからだと思うんです。逮捕されてすぐ、接見に来た弁護士の先生が、アクリル板越しに一枚の色紙を見せてくれたんです。そこには「信じてます、頑張って」というメッセージとともに、多くの仕事仲間や友人の署名が書いてありました。家族は私のことを200%信じてくれると思っていましたが、こんなに多くの人が私を信じて応援してくれるとは思わなかった。逮捕されて、一度はすべてを失ってしまった、と思ったけれども、私は変わっていないし、何も失っていないんだ、と気がつきました。
──面会が許されると、約70人の友人が村木氏のもとを訪ね、500通もの励ましの手紙が届いた。
本当にありがたかったですね。夫とも文通をしていました。別にロマンチックなことを書いているわけではなく、「こんな本がおもしろいよ」とか、「○○さんが面会に来てくれてうれしかった」とか、たわいない情報交換が主でしたが(笑い)。そのとき感じたのが、いちばん楽しいこと、うれしいことを共有できる相手というのは夫だったんだな、ということでした。