「年金請求のない人へのご案内の仕方を検討するなかで、ご指摘のケースについても、お知らせするかどうかを検討することになります」(同)

 手続き面での整備も必要だが、先の三宅氏は法律の規定そのものを変えたほうがいいと指摘する。

「受給権を基準にすると、妻死亡と同時に自動的に権利が発生してしまい、そこに夫の意思が入る余地はありません。私は受給権ではなく、『支給を受けていたときは繰り下げができなくなる』という規定に変えるのがいいのではと思っています。支給を受けるには、夫が妻の遺族厚生年金の請求をしなければなりません。そこには明確な夫の意思があるので、その場合は繰り下げできなくなっても仕方がないでしょう」

 三宅氏によると、年金法のなかに同様のケースがあるという。詳しいことは省くが、国民年金に保険料の掛け捨て防止策として「寡婦年金」という制度があり、それを支給しない条件として「(夫が)老齢基礎年金の支給を受けていたとき」という規定が定められているのだ。繰り下げも「同様の表現に改めよ」との主張である。

 手続きにせよ、法律の規定にせよ、年金加入者や受給者にとって使い勝手がいい制度になってほしいものだ。国が「長く働いて、年金は遅くもらう」というライフスタイルを推奨しているから、なおさらである。

「妻に先立たれた場合」はその一例だ。落とし穴の存在がわかった以上、改善に向けて声をあげていこうではないか。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2020年10月9日号

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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