菅義偉総理は日本学術会議が推薦した新会員候補の一部の任命を見送った。「前例を踏襲して良いのか考えた」と述べ、学問の自由の問題を改革一般論にすり替えて、「改革派菅義偉!」という自己宣伝に利用している。
菅氏の改革と言えば、「ハンコ撲滅」「デジタル庁創設」のような誰でもできる話が目立つ。だが、ハンコ撲滅は菅氏が官房長官だった7年8カ月の間にやらなかったのがむしろ驚きだ。本来なら謝罪すべきなのに、それどころか、自分の非を自己宣伝に転化した。「さすが!」と拍手してしまいそうに巧妙な手口だ。
このように一見絶好調に見える菅氏の「ナンチャッテ改革」なのだが、その裏では、「反改革」の政策が堂々と進められているのをご存じだろうか。その一例を紹介しよう。
JAグループは、2020年産のコメのうち20万トンの販売を先送りするという。コメの需要が低迷して値段が下がっているからだ。20万トン流通が減ればコメの価格が上がり、コメ農家は儲かる。菅政権はこれを黙認し、販売を先送りするコメの保管料の半額(10億円から20億円程度)の補助金を出して支援する。
しかし、ちょっと待ってほしい。コロナで失業したり収入が大きく減って、食事の回数を減らす人が増えている。飲食店も売り上げ大幅減少で倒産も増え、従業員解雇も増加中だ。そういう庶民や業者にすれば、コメの値上げは死活問題だ。
JAの圧倒的市場支配力で供給を制限し、高値を維持するのは「不当な」行為だ。政府がそれを黙認し、そのための保管料の半分を補助するとは!
生死の境をさまよう人々が納めた税金(生活のために買い物すれば消費税を取られる)を使って、コメ値上げで庶民の食生活破壊に追い打ちをかける。「税金を返せ!」と言いたくなる話だ。
実は、こうした高値維持政策は日本のコメ農家のためにもならない。なぜなら、価格が上がった年ほどコメの需要が減少するからだ。少子高齢化やライフスタイルの変化でコメの需要は減少傾向なのに、さらに値段を上げることで縮小スピードに拍車がかかる。しかし、驚くことに、農林水産省は、最近まで高価格が需要減少を招くことを認めることさえなかった。JAの逆鱗に触れるからだ。