指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第40回は、逆境を乗り越えるために必要な指導の基本について。
【写真】日本オリンピック委員会(JOC)会長も務めた古橋広之進さん
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競泳で今年度初の全国大会となる第96回日本学生選手権(インカレ)は10月1~4日、東京辰巳国際水泳場で無事に開催することができました。新型コロナウイルスの感染拡大予防策として参加人数を絞ったこともあり、記録的にも好調だったと感じています。
学校対抗は男子優勝が明治大で2年ぶり、女子は神奈川大が初優勝を果たしました。8月初めまでキャンパスの施設が使えなかったという神奈川大は、オンライン授業を受けながら大学の外で練習を続けたと聞きました。外出自粛期間をはさんだシーズンでしたが、どの大学も練習環境を整える努力を重ねて臨んでいました。日本選手権、ジャパンオープンと全国大会が続く下半期に確かな一歩を踏み出せたと思います。
戦後の日本の水泳界をリードした古橋広之進さんは「逆境こそが進歩の母」という言葉を残しています。敗戦後の厳しい環境の中で練習に打ち込み、自由形中長距離で何度も世界記録を更新しました。選手も組織も、いつでも順風満帆というわけにはいきません。つまずいたとき、理由を深く考えて、どうやって前を向いて起き上がるか。日本の水泳界は古橋さんの言葉通り、逆境を乗り越えて前進してきた歴史があります。
前回の1964年東京五輪で期待された競泳日本代表は、男子800メートルリレーの銅メダル1個に終わりました。ジュニア育成を柱とした再建策が打ち出され、全国にスイミングクラブができていきます。私がコーチとして就職した東京スイミングセンター(SC)も68年、昨年のNHK大河ドラマ「いだてん」の主人公の一人、当時日本水泳連盟名誉会長の田畑政治さんが中心になって創設されました。