菅首相の学術会議任命拒否問題が大きな波紋を呼んでいる。首相がリストを「見ていない」という発言も飛び出し収束はつきそうにない。AERA 2020年10月26日号で掲載された記事を紹介。
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日本学術会議が推薦した候補者105人のうち、新会員候補6人が任命されなかった問題が政権の足元を揺るがしている。発足直後は70%超あった支持率は、わずか数日で50%台まで急降下。菅義偉首相は、自民党の主要5派閥を後ろ盾に鳴り物入りで総理の座を射止めたが、今日まで単独会見も所信表明演説もせず、戦でいえば初陣すら果たせていない。26日からいよいよ始まる臨時国会を前に、準備段階で墓穴を掘った格好だ。
■「パンケーキ懇」に批判
「私はリストを見ていない」
その発言が飛び出したのは、10月9日、朝日新聞など3社による菅首相へのグループインタビューの終盤だった。内閣記者会加盟の常勤19社に所属する総理番記者と一部のフリーランス記者が参加する公式の総理会見ではない。一部のメディア(朝日新聞、毎日新聞、時事通信)の代表記者がグループとなり、与えられた時間の中で菅首相に質問した。室内では、選ばれなかった記者がそのやりとりに聞き耳を立てる。これまで目にしたことがない奇妙で不可解な儀式だった。
なぜ、このような場が準備されたのか。この6日前、菅首相は東京都内のパンケーキ店で、完全オフレコの記者懇談会を開催した。参加したのは内閣記者会に所属する19社のうち朝日新聞、東京新聞、京都新聞を除く16社。しかし、この非公式の会合が「パンケーキ懇」と揶揄され、有権者から「政権とメディアの癒着だ」「オフレコでない場で説明を」と批判が相次いだ。官邸は、この批判をかわす目的で、朝日新聞など3社にグループインタビューという場を準備し、情報公開に積極的な姿勢を見せるはずだった。
政府関係者の一人は、官房長官という立場で記者と連日、対峙してきた菅首相とその周辺は、ある記者会見の対応の失敗が安倍政権の瓦解のきっかけになったと分析しているという。